其の233:やっぱりペキンパー「ワイルドバンチ」ほか

 現在、三国史の映画化(「赤壁」)に取り組んでいるジョン・ウーですが、彼の作品の特徴で外せない要素のひとつが「スローモーション」!「フェイス/オフ」なんぞは銃撃戦は勿論、歩くニコラス・ケイジのコートの動きまでスローモーションになる(笑)。そんなウーのスローモーションの元ネタがサム・ペキンパーの諸作品!彼の作品はこのブログでも幾つか紹介してきたが、彼の最高傑作「ワイルドバンチ」は未だ取り上げてなかったわ(苦笑)。今回は彼の最後の西部劇「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯」と併せて(またまた)グラインドハウス方式で紹介したいと思います^^


 まずは1969年の「ワイルドバンチ」。超メジャー作なんで細かいことは書きませんがー20世紀初頭、メキシコを(主な)舞台にパイク(ウィリアム・ホールデン)をリーダーとする強盗団メンバー(アーネスト・ボーグナインウォーレン・オーツ、陸上選手と同姓同名のベン・ジョンソンほか)が大暴れする様子をダイナミックに描き上げる異色西部劇巨編!


 TVドラマを経て「荒野のガンマン」(’61)、「昼下がりの決斗」(’62)とウエスタン監督として着実にキャリアを築いてきたペキンパー。ところが前作「ダンディー少佐」でプロデューサーや俳優たちとモメにモメ、トラブルメイカーの烙印を受け仕事を干されてしまう。そんなパキンパー、4年ぶりのカムバック作品がこの「ワイルドバンチ」である。


 「ワイルドバンチ」とは1880年代から90年代にかけてアメリカの一部の地域で暴れ回った無法者集団の事を指す。銀行や列車強盗、牛泥棒など様々な悪事を働いた事で知られている。このメンバーで有名な頭目が「明日に向って撃て!」で御馴染みのブッチ・キャシディサンダンス・キッド!「明日〜」に登場する「壁の穴ギャング団」は数ある「ワイルドバンチ」の巣窟の1つの名前で、今作「ワイルドバンチ」の主人公たちは彼らを除いた残党である。「明日〜」と一緒に観てみるのも一興^^


 「終わりゆく開拓時代に取り残されつつある男たち」はペキンパー生涯のテーマだが(次作の「砂漠の流れ者 ケーブル・ホーグのバラード」もタッチは異なるがテーマは同じ)、今作では4年間のフラストレーションを叩きつけるかのようにペキンパーが作品に全力投球!元々あった脚本も自ら「脚色」、大好きなメキシコの地でウルトラ・バイオレンスを繰り広げる。


 劇中なにより凄いのがクライマックスの「大銃撃戦」!!機関銃乱射にダイナマイトの爆破に次ぐ爆破!西部劇の範疇を越え、もうほとんど戦争映画(笑)。この場面で先述の「スローモーション」が全面的に取り入れられている。映画監督になる以前、ペキンパーは銃で撃たれた経験があるそうで、その時に目にした光景がスローモーションの様に見えたとのこと。自らの経験から生まれたのがスローモーションによるバイオレンス描写なのだ。ちなみにこのクライマックスは11日間、それぞれスピードの異なるカメラを数台延々廻して撮影されたもの。ご丁寧にも撃ち殺された兵士役のエキストラは、人工の血だまりと薄切りの生肉(=飛び散った神経組織を表現)が散乱された中に横たえられたそうだ。これは・・・大変だっただろうなぁ(苦笑)。


 完成した映画は(西部劇自体がもう客のこないジャンルになっていた事もあり、当初アメリカでの興行はいまいち伸び悩んだものの)世界中で絶賛され一躍「ペキンパー・ブーム」を巻き起こし、ラストの戦いは「血の舞踏」と称されている(こうしてペキンパーは見事、第一線に返り咲いたわけ)。筆者も「ワイルドバンチ」が彼の最高傑作だと信じて疑わないし、西部劇では必ず上位にランキングされる傑作中の傑作。若い映画ファンで観ていない人は大勢いると思うんで是非観て欲しい!



 ・・・さて、「ワイルドバンチ」、「砂漠の流れ者」以降はダスティン・ホフマン主演で初の現代劇「わらの犬」(’71)やスティーブ・マックイーンの「ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦」、「ゲッタウェイ」(共に’72)を手掛けたのち「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯」(’73)に着手する。ハリウッドのアウトローが、西部のアウトローを撮ったわけ(笑)。


 ビリー・ザ・キッドは21人もの人間を殺害した実在の人物。友人でありながらも保安官となったパット・ギャレットに射殺され、21才の短い生涯を終えた。今作はそのビリーの晩年を描いたもの。蛇足だが現存するビリーの写真が左手で銃を持っている事から「左きき」だとされているが(それでポール・ニューマンがビリーを演じた作品タイトルは「左ききの拳銃」)、写真が「裏焼き」との説もあり「左きき説」の真相は不明。興味のある人はそのテのサイトで調べてね^^


 雇われ企画であったものの(当初は「断絶」のモンテ・ヘルマンが監督に予定されていた)以前からビリーに興味のあったペキンパーは、「ワイルドバンチ再び」を目論む上の人とまたまたモメつつ(苦笑:ペキンパーがプロデューサーと対立するのと現場でスタッフのクビを切るのはいつもの事)ギャレットに旧知のジェームズ・コバーン(「スピーク、ラーク」)、ビリーにカントリー歌手のクリス・クリストファーソンを起用(後年の「コンボイ」にも出演)。あのボブ・ディランが脇役ながら出演&映画音楽も担当している(ペキンパー自身もちょい役で出演)。


 話自体は「有名な実話」だし最期にビリーが死んで終わるのは分かりきっているんで割愛しますが、原題が「パット・ギャレット・アンド・ビリー・ザ・キッド」とあって2人の行動が並行して描かれます。「時代が変わったから俺も変わる」とヤクザ稼業から足を洗い保安官になったギャレットと「俺は変わらねぇよ」と言いつつも内心、友人や時代の変化に少なからず寂しさを感じるビリー。そんな2人を優しく見つめるペキンパーの視線が感じられます(撮影中はインフルエンザ騒ぎとか、人間関係以外も現場は大変だったらしいけど)。

 
 現在、何年か前にペキンパーの当初の意図を汲んで再編集がなされた「特別編」がDVDで出ていて、久々に見直したら「冒頭」の編集がまるで違うのに驚いた(かなり「意味深」な感じ)!旧バージョンと併せて観賞する事をお薦めします。「ワイルドバンチ」は越えてないけれど、詩的情緒のあるペキンパー最後の西部劇「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯」。筆者のお気に入りのひとつです^^