其の304:ニューシネマウエスタン「さらば荒野」

 このブログで「西部劇」を紹介する場合、本場・アメリカ製の映画よりもイタリア製西部劇(俗にいう「マカロニウエスタン」)を紹介する事が多いが(笑)、1971年公開の映画「さらば荒野」はれっきとした本国・アメリカ製映画。1971年といえば、すでに「アメリカン・ニューシネマ」が始まって数年経過し、忘れえぬ傑作・名作が続々作られていたのだが、今作は何故かあまり後世に伝えられていない「知る人ぞ知る」ウエスタン!筆者的には「明日に向って撃て!」と同じく<西部劇>というよりは、異色の<青春映画>あるいはビターな<人生映画>・・・という方がピッタリくるのではあるのだが、単なるウエスタンじゃないことだけは断言しよう!


 19世紀末のアメリカ。アウトロー集団のリーダー、フランク(オリバー・リード)たち一行は、テキサス州ルーガー群にて女性教師メリッサ(キャンディス・バーゲン)を誘拐、旅の仲間に加える。流れ者としての暮らしに飽きたフランクは「安定した新たな人生を切り開くため」、彼女から文字の読み書きを習おうと考えたからであった。ところが彼女は地名にもなっている大物実力者ブラント・ルーガー(ジーン・ハックマン)の妻だった!表向きは紳士ながらサディストの彼は友人たちと共に妻を奪還すべく、フランク一味を<狩る>旅に出る・・・!


 アメリカ西部劇には、しばしば白人がイン●●アン(=放送禁止用語)にさらわれ救出に向かう話はありますが(例:ジョン・フォードの「捜索者」ほか)現代劇ならいざしらず「白人にさらわれた白人」の話は聞いたことがない。加えて製作兼脚本家によると「最初は読み書きをおぼえたいと痛切に願い教師を誘拐する1人の無法者を描くつもりだった。が、そのアイデアが誘拐後、人間狩りを目的とする狩猟パーティーへと広がっていった」そうだが(原題「The Hunting Party」)・・・なんでそうなんねん(笑)?一瞬、この人は天才かとも思ったが、他の作品で名前を聞いた覚えがないので・・・単なる偶然の産物だろう(笑)。


 おまけに「泣く子も黙る凄腕ガンマンの無法者」が実は人間味溢れるいい人で、「富豪にして街の大物実力者」がドSというのも面白い^^地位は高くても裏じゃろくなことしない人間は、どこの国にもいるんだなぁ(笑)。
心やさしき無法者・フランクを演じるのは「肉体の悪魔」、「グラディエーター」の故オリバー・リード(=「第三の男」のキャロル・リード監督は叔父)。情に厚い髭面のアウトロー役はビジュアル的にもピッタリ!!「ずっと良い西部劇に出たいと思っていたが、それが見つかって嬉しかった」とコメントしているからよかったよかった^^。
 ドSで傲慢な実力者に扮したジーン・ハックマン。作中では友人たちを高級列車を貸切にして招待、「飲ませる・ギャンブルで勝たせる・女を抱かせる」のベタな接待を展開(笑)!今作はオスカーを受賞した「フレンチ・コネクション」以前の作品だが、この人は「フレンチ〜」前も今も平気でワル役演ってるので全く違和感なしのナイス・キャスティング。いま見てもあんまり見た目変わってないのも凄い。


 メリッサを演じるのは千昌夫が喜びそうなパツキン美女、キャンディス・バーゲン。この方、「十二人の怒れる男」で知られる社会派監督シドニー・ルメットの「グループ」(’66)でデビュー後、スティーブ・マックイーンと共演した「砲艦サンパブロ」とか「ソルジャー・ブルー」ほか<骨太な作品>に好んで出ているのがいい^^。今作でもその清楚な彼女は健在。変態の夫ブラントから(何故、こやつと結婚した理由は不明。金か?)やがて優しいフランクに心惹かれて行動を共にする才女をイキイキと演じています。ルイ・マルと結婚したため80年代は出演作が減ったのが惜しまれる(マル、うらやましいぞ)。


 監督はドン・メドフォード。「FBI」、「0011 ナポレオン・ソロ」等のTVドラマを手掛けていたようだが「さらば荒野」以外の映画監督作は・・・不明(興味のある人は自分で調べてね。この映画、出演者はメジャーな人が多いのにスタッフは何故か無名な人ばっか)。TVドラマ出身らしく演出的には「引く時は引く、寄る時は寄る」のメリハリの効いた演出で非常に見やすい(=長年、映画の方で助監督やってた人だと、ともすると引いた絵ばっかりで何が写ってるのかよく分からなかったりするのよ)。勿論、西部劇だけにドンパチも満載(=ハックマンたちは近距離だと負けるということで、高性能の照準を装備したライフルで遠くからリード一味を撃ち殺してゆく)。その描写が「飛び散る血しぶき&スローモーション」ということで、どうみてもサム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」!「ワイルドバンチ」はこの2年前に公開されて、世界中でペキンパー・ブームを巻き起こしたから影響されるのも致し方なし。やっぱりペキンパーは偉大だ^^


 ジーン・ハックマン演じる男は、当初は怒りに任せての「女房奪還」が目的であったものの(=もし身代金を要求されてもビタ一文払わないと言い切る守銭奴)相手の弾は届かない(=自分は安全)遠距離から人間をぶっ殺していくうちに本来の目的を忘れ禁断の「人間狩り」に魅了されてゆく姿が恐ろしい(もうドSどころの話じゃないね)。友人たちが呆れ果てても延々ひとり追ってゆく様は・・・もう理由すらないものの、シロクロ決着をつけるしかない・・・という狂気すら感じられた。で、現在ではちょっと意外とも思えるラスト(=でもニューシネマではセオリー)。こういう余韻が・・・いまのハリウッド映画にはなくなったよな〜。


 イン●●アン(=放送禁止用語)の出ない「白人VS白人」によるニューシネマ西部劇「さらば荒野」。映画なんて「キネマ旬報」のバックナンバー以外に記録に残っていない作品がごまんとあるのは先刻承知ではあるのだが、こういう作品こそソフト化希望(=ビデオにはなったがDVDにはなってない)!「男女の愛憎」&「人間の狂気」がミックスされた映画もそんなにないぞ!!