其の249:反骨ハードボイルド「キッスで殺せ」

 先日、アジア系初のアカデミー監督アン・リー(アンといっても男よ)の最新作「ラスト、コーション」を観た。1940年代の香港&上海を舞台にした歴史大作でいい映画なんだけど・・・これ去年公開されたポール・ヴァーホーヴェン大先生の「ブラックブック」とそっくり!ナチと日本軍入れ替えただけ(苦笑:原作付きだからパクりではないと思うけど)。但し、アン・リー演出である分、「ブラックブック」よりは格調高い。
話題のHシーンもそんな騒ぐほど大したことない。日本のAVの方がエゲツなさは遥かに上(笑)。ただ、筆者的にはヒロインが脇毛生やしてたんで引いてしまった(女性が脇毛を剃る習慣はアメリカのものだから致し方ないけど)。オチも読めたしね。でも「いい映画」ではあるので、映画ファン&そのテのフェチの方はどうぞ劇場へ足をお運び下さい^^


 さて本題(笑)。筆者が「ミステリー・サスペンスファン」である事は度々ここで書きましたが、男の心意気を描かせたらハリウッド1の監督ロバート・アルドリッチが手掛けた「キッスで殺せ」(’55)をご紹介!フィリップ・マーロウ、サム・スペードと並び有名なハードボイルド探偵マイク・ハマー濱マイクじゃないよ)もの。レベル的には「B級」なんだろうけど(メジャー俳優出ないし)これがなかなかいいのよ^^

 
 ある夜、コート1枚羽織って道路で助けを求めていた女性。そんな彼女をハマーが車に乗せた事が全ての始まりだった。不意に彼女共々<謎の組織>に拉致られるハマー。結果、女性は事故死にみせかけられて殺され、ハマーも重症を負った。退院した彼は彼女の無念を晴らし組織の謎を暴くべく、単身危険な捜査に身を投じてゆく・・・(ちょっとハードボイルド調の文体で書いてみました)。

 
 シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロと異なり、ハードボイルドの探偵たちは頭より身体!動物的直感で関係者を探し出し、シバき倒して吐かせてゆくのがパターン(笑)。ミッキー・スピレーンによる私立探偵マイク・ハマーもこのタイプ!「裁くのは俺」なのだ。正にアルドリッチにぴったりのキャラ(笑)。で、今作では次第に予想もしない組織と意外なターゲットに辿りつく!!

 
 今作が公開された1955年は東西冷戦の構造が本格化し、またテレビが急速に普及した時期でもある(ジェームス・ディーンが事故死したのもこの年だ)。「キッスで殺せ」はアルドリッチ曰く「(原作から)タイトルは借りたけど中味は捨てた」そうで(よく原作者に怒られんかったな)彼の考えや意見がストレートに反映された作品となった。

 
 ハマーが殺された女性の友人やそこから名前の出た関係者を当たっても皆まともに返答しない(で買収されるかシバかれてようやくしゃべる)。これはアルドリッチに言わせると40年代に始まった<マッカーシズム(=赤狩り)批判>を込めたのだそうだ。真実には口をつぐみ、時には自己保身のため平気で他人を売る・・・そんな時代の風潮(&怒り)を登場人物たちの言動で表現(但し、ハマーも女秘書に「美人局」やらせて稼いでいたりするので単なる正義の熱血漢ではない)。
また、物語の核となるモノ(ネタバレ防止につき自粛)も・・・先に書いた<当時の時代を反映>したモノとなっていて興味深い。

 
 原作を「捨てた」ため、辻褄が合わなかったり最後まで観ても不明瞭な部分もあり、もう少し脚本を練ればよかったと思うけれど、冒頭の「コート1枚の裸足のねーちゃん」登場シーンから画面にぐいぐい引き込まれる!でタイトル&スタッフロールはパースがついた状態で上から下に抜けてゆく<逆スター・ウォーズ>状態。
また当時の作品としてはなかなか面白い画を撮っていたりして、フランスのヌーヴェルヴァーグ一派に影響を与えたとも言われている(=当時、彼等はハリウッド映画を熱心に研究していた)。

 
 ハードボイルド小説の映画化の代表作といえば「マルタの鷹」や「三つ数えろ」、「大いなる眠り」あたりが一般的だが、この「キッスで殺せ」は出来としては不完全ではありながら、個人的には映画史的に見て外せない1作だと思う。「歌は世につれ、世は歌につれ」であるならば映画も時代を映す鏡である。1950年代の人々の気分を映し出した稀有な作品であり、通好みの映画ではなかろうか。メジャー作品ではないけれど逆にいま観ると新鮮でお薦めです^^


 
 <蛇足>知ってる奴がスタッフに参加しているんで映画「悪夢探偵」(塚本晋也監督)を遅らばせながら観たのですが・・・タイトルに反してミステリーでもないし、スプラッターにもなりきれていない。
主人公のキャラ設定は面白いが(ジェニファー・ロペス主演作に似たやつあったけど)脚本が直線的過ぎて、ストーリーに奥行きがない・・・う〜ん(苦笑)。「2」もじきに公開されるようだが・・・これからは余り知り合いの絡む作品は観ない方がよさそうだ。