其の250:三度「ブレードランナー」を観る。

 近未来SF映画の金字塔(もう「ポスト・モダン」とか「サイバーパンク」って死語でしょ)「ブレードランナー」は様々なバージョンがある事で知られている。「劇場公開版」に「完全版」、「ディレクターズカット」ときて「ファイナル・カット」がついこの前公開されたと思ったら・・・製作25周年を記念して発売されたDVD−BOXには、公開前のリサーチ試写で使用された「ワークプリント」までソフト化されとる(オー、マイガーッ)!
なので仕方なく観た(笑)。「ブレラン」はこのブログの初期に更新しているのだけれど、筆者的にもこんなに同じ映画のバージョン違いを観る事はおそらく一生ないだろうし、250回という数字的にもキリがいいんであえて「ブレラン」を再び書きます。


 今更ストーリーなどは割愛しますが・・・「ブレラン」には様々な謎がある。それがこのDVD−BOXの「ワークプリント」や「未公開シーン集」を観るとそれらが分かってしまうのだ^^

 
 その①:主人公デッカードハリソン・フォード)が立ち食いそば屋で<何か>を4つ注文し、親父から「2つで充分ですよ(=日本語)」と突っ込まれるシーン。
画面上では何を注文したのかさっぱり分からないが「ワークプリント」ではナス天ののった丼(「天丼」説あり)だった事が判明した。一応撮影はしてあったのね。

 
 その②:劇中、デッカードの経歴やプライベートはよく分からないままだが「未公開シーン集」には「劇場公開版」とは異なる大量の<独白ナレーション>が!それによると以前はブレードランナー(=レプリカント退治)だったが、いまは自分的には「引退」した身。妻はいたが離婚し、彼女は金持ち男と再婚している設定。可哀想な男だ(カットされた映像には夫婦の写真もあり)。


 その③:そして「ディレクターズカット」から派生した<最大の謎>・・・デッカードは果たしてレプリカントか否か!?これは特典映像で監督のリドリー・スコット自身が明言してますが・・・ここではあえて伏せます。だって楽しみがへるでしょ(笑)。


 様々な謎に加え、これまでスチールでしか見る事の出来なかった映像(ホッケーマスクの女やデッカードが同僚を見舞うシーンほか)も「ワークプリント」や「未公開シーン集」で観られます^^相当な量のシチュエーションを当時撮影していた事が良く分かりましたわ。中には街から脱出したデッカードとレーチェル(ショーン・ヤング)の車の中での会話や水滴がスローで落ちる<別オープニング>なんてのも作られていたりして驚いた。
業界人にも多大な影響を与えた今作だが、中でも「ショーシャンクの空に」の監督フランク・ダラボンがスピナーの模型を持って「ブレラン愛」を語っているのは完全におたく丸出し(笑)。


 全バージョンを観た結果、筆者が分かったのは・・・ナレーションをやめた事で「作品に深みが出た」という事。説明がついていると自分で考えることをしなくなるが、なければ推理するしかないので様々な解釈が可能になった分、作品に幅を与える事が出来たと思う(=正誤は抜きにして)。
実はこれキューブリックの「2001年宇宙の旅」と全く同じ手法!当初「2001〜」のワークプリントにも学者が地球外知的生命体存在の可能性を語るインタビューやナレーションをつけていたのだけれどキューブリックはそれらを全てカット!「考える事で作品に参加して欲しい」とコメントした。
スコットが真似したかどうか定かではないが、意識的に情報を遮断した事で「ブレードランナー」は繰り返しの観賞に耐えうる作品に昇華されたと言っても過言ではないだろう。