其の248:血まみれ音楽劇「スウィーニー・トッド」(’07)

 映画界ではこれまで数々の「名コンビ」が現れては名作を世に送り出してきた(以前にも書いたから詳しくは割愛)。
 そして現在。映画界において「名コンビ」と呼ばれる1組は間違いなくティム・バートンジョニー・デップのふたり。その彼等のコンビ最新作が「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」!「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズで世界的な人気者になったデップだが・・・「パイレーツ〜」からの<にわかデップファン>がこれ観たら卒倒するぞ!あまりにもグロで。暇なカップルがデートの一環で観ても・・・その後、会話が続かないだろうから・・・コアな映画好きカップル以外はご注意あれ(本当)^^


 19世紀のイギリス・ロンドン。腕のよい理髪師ベンジャミン・バーカー(=デップ)は美しい妻と産まれたばかりの娘、3人で平和に暮らしていた。ところが、彼の妻に横恋慕した権力者ターピン判事(「ダイ・ハード」のアラン・リックマン)によって無実の罪をきせられ捕えられてしまう。
 それから15年後ー。ようやくロンドンに戻ったバーカーは名前をスウィーニー・トッドと変え、住んでいたフリート街へ。ところが家族の姿はなく、売れないミートパイ店を経営する未亡人ラベット(扮するのはバートン夫人、ヘレナ・ボナム=カーター)によると、妻は辱めを受けた末に砒素を飲み、娘はターピンの養女にされたという。判事への復讐を誓い鬼と化したトッドはラベットと結託、ある計画を実行に移す。それはトッドが再び理容店を営業し、店に来た客の喉を剃刀で切りつけて殺害(=復讐の本番に備えての練習)。死体は証拠隠滅のため肉をミンチにし、ラベットのパイに使用するというものだった。人肉パイを発売したところ、これが大人気!こうしてトッドは判事が自分の店に来る日を待ち続けるー。


 非常に猟奇的な話(その昔、香港映画で「人肉」シリーズがあったなぁ。人肉饅頭とかさ)。いくら「再利用」といっても、これはエコではない(笑)。その昔、キャプテン・クックがオーストラリアに到達した際、食人族と遭遇。人肉を食べるよう薦められたと読んだ事があるが・・・ホンマに美味いんか(例え美味くても食べたくないけど)?
 ちなみに「スウィーニー・トッド」は「切り裂きジャック」と並ぶイギリス殺人界(笑)では有名なキャラクターで「一説」によると19世紀初頭、刑務所の服役中に理容術を学んだトッドが出所後、ロンドンのフリート街でミートパイ店を経営する愛人と共謀。150人を殺害し、その肉を使ったミートパイを売ったという(=但し、実在したかどうか定かではない)。既に何回か映画化されており(=それ故、今回タイトルに年号を入れました)、今作はスティーブン・ソンドハイムによる同名ミュージカル劇の映画化です。


 今作の最大の見所は「ミュージカル」という事でジョニー以下、俳優陣が披露する数々の歌声!皆相当練習されたようで(=吹き替えなし)その歌いっぷりは大したもの^^一聴の価値あり!
 また映像的にも、これまでのバートン作品同様<ゴシック趣味>溢れるセット(美術は「ギャング・オブ・ニューヨーク」のダンテ・フェレッティ)も堪能出来るし、<現実>は暗い映像、<過去やイメージ場面>は明るいトーンで表現するなど通常とは<逆>となる面白い工夫がなされている。これまでも少々やってはいたけど、今作においてバートンの<ホラー好き>、<残酷趣味>、<ダーク嗜好>が全開!


 ただねぇ・・・筆者は好きだけど、トッドが客殺すところはモロ(多少は誤魔化して撮るかと予想してたけど)!切り裂かれた喉元から血がビュービュー噴出す「子連れ狼」状態(笑)。で、それがひとりじゃなくて何人分も。この辺りは人によって評価が分かれるだろう。筆者はバートンの「血はハッキリ見せる」と決めた判断を支持する(その分、「人肉パイ」の製造過程の表現は少なめ)。
 
 また「ミュージカル」である分、何曲も歌うんだけど・・・それが時にストーリー進行の邪魔にもなっている。これでもカットした曲はいくつかあるらしいが・・・もうちょっと落としても良かった気がした。

 「ラスト」は・・・こういった設定上、絶対にハッピーエンドはありえないんだけど、ちとアレだけで終わるのは舞台ならいいけど、映画的には・・・少々寂しい気が。ネタバレしないよう書きますが(=観た人は分かると思う)最後の最後、せめてジョニーのクローズアップの表情を加えても良かったと思うし、若者と○○○(=自主規制)によるエピローグを短く足しても良かったと思う(そこまで変えると怒られるかもしれんが)。


 苦言も書きましたが筆者は楽しめましたよ^^以前からバートン&ジョニーのファンでもあるし(ちなみにバートンは今回のジョニーの役が「一番好き」とコメント:笑)。
これまで「シザーハンズ」で人造人間、「エド・ウッド」では最低映画監督、「スリーピー・ホロウ」の変な警察官に「チャーリーとチョコレート工場」ではチョコ作りの天才(人形アニメ「コープス・ブライド」は声の出演につき割愛)・・・様々な妙な役を与える天才ビジュアリスト、バートンと彼の要望に100%応える個性派俳優ジョニー・デップ。次回7度目のコンビ作がどのような作品になるのか楽しみである。