其の247:きも怖サスペンス「顔のない眼」

 近頃、70〜80年代のようにゾンビや首ちょんぱ系(別名「切り株系」)の映画が増えて喜ばしい限りだが、やはり「映画的に一番怖い」のは設定や描写含めて<極めてリアル>なものだろう。そういう意味で1959年に製作された「顔のない眼」(フランス・イタリア合作)は、真剣に怖い映画のひとつだと思う。ジャンル的には「サスペンス」の部類だと思うが「残酷系ホラー」と言っても過言ではない。冒頭のテーマ曲からして怖いぞ(なんと作曲はモーリス・ジャール)^^


 時は現代(製作当時の)。舞台はおフランスのパリ(最初に「おフランス」って言ったの誰だ?)。事故で顔に大やけどを負った娘の為に、父親である医師が秘書(「第三の男」のアリダ・ヴァリ!この人、色んな国の映画に出てるなぁ〜)に女性をさらわせてその顔の皮を剥ぎ、移植手術を試みる・・・というもの(ゾッ)。勿論、警察が捜査しますぜ^^


 個人的には「ブラック・ジャックに頼めばいいのに・・・」と思ってしまうが(笑)「都市伝説」じゃないけど、なんだか実際にありそうな話だし、娘のつけている「マスク」がまた怖い!まさに「フランスのスケキヨ」(笑)。


 監督はジョルジュ・フランジュ。監督として本数を撮っていないのもあって決してメジャーではないが(故人)、彼は「映画収集家」として世界中の名作映画を保管、上映する「シネマテーク・フランセーズ」を設立したメンバーのひとり。フランスのみならず世界の映画界においても多大な貢献をした人物として記録されよう^^「犬神家の一族」はさすがに観ていないと思うが(爆笑)。
 今作の「作風」には同時期に同じフランス映画界で活躍したアンリ=ジョルジュ・クルーゾーの影響が感じられる。「顔〜」の製作以前、既にクルーゾーは「悪魔のような女」という傑作スリラーをものにしているが、「悪魔〜」と今作には幾つかの<共通項>があるのだ。


 まず「悪魔〜」は有名なオチも含め、どぎつい描写が目立ち「グランギニョル見世物小屋的劇)趣味」と形容されたが、この「顔のない眼」も娘が焼けただれた顔を晒す場面や皮剥ぎ手術シーン(モロ)があり、どぎつさ満点!
 また「悪魔〜」の映像は全編、クルーゾーが好んだローキートーン(=モノクロ映像で明暗のコントラストを余り強調せず、全体的に沈んだ重い感じに仕上げられた画調)で統一されていたが、今作もローキートーンでまとめられている。今作のカメラマンはドイツ出身なので(元フリッツ・ラング組)本当は<逆>の明暗くっきりの方が得意だったとは思うけど(笑)。
 更に「悪魔〜」はピエール・ボワロー&トーマス・ナルスジャックの同名小説が原作だが(かのヒッチコックも映画化権取得に動いたがクルーゾーにとられていたので、代わりに彼らの「死者の中から」の権利を獲得し「めまい」を作ったのは有名な話)「顔〜」の脚本家メンバーにボワロー&ナルスジャックを起用している(原作者のジャン・ルドンも脚本に参加)!フランジュが「悪魔〜」を相当意識して製作に当たった事がこれで明白だろう(違ってたらゴメンネ)。


 オチはね・・・勘のいい人ならおそらく途中で分かるでしょう(ネタバレせぬよう詳しくは書きません)。最後は残酷&(何故か)ポエム的・・・とだけ書いておきます(笑:でも本当)。「狂ったメス」や「ショック療法」ほか外科手術とホラーをミックスさせた始祖的作品という評価もあるようだから、サスペンスやホラー嫌いの方も一見の価値あり!