其の511:新作邦画2本レビュー(「凶悪」ほか)

 10月になりました。やっと・・・涼しくなったなぁ!そんな中、2本続けて邦画を観たのでネタばれせぬ範囲で簡単にレビューを^^

 
 まずは園子温監督作「地獄でなぜ悪い」。
 10年以上、対立している2つのヤクザ組織の親分(=國村隼堤真一)。武藤(=國村)は間もなく出所する妻(=友近)の願いを叶える為、愛娘・ミツコ(=二階堂ふみ)をヒロインとした映画製作に乗り出す。ひょんなことからミツコと知り合った公次(=星野源)を“監督”として準備が開始されたものの、いかんせんド素人!困り果てた彼は長年自主映画作りに没頭している平田(=長谷川博己)らのグループに仕事を依頼。殴り込みの様子をそのまま撮影するというバイオレントな映画作りがスタートした・・・!!

 お話は上記の通りめちゃめちゃ面白そうでしょ?園監督が豪華キャストを揃えてハイテンションな活劇を展開していく大エンターテインメント作(脚本自体は監督が10ウン年前に自身の経験も踏まえて書いていたもの)。「仁義なき戦い」あり、ブルース・リーあり、“フィルム愛”あり、面白いことは間違いないんだけど・・・最初にいろんなキャラを出して、じょじょにつなげていく構成をとっている分(→当然、尺的にも長い)、肝心の「映画作るぜ〜!」から撮影開始までの展開がちと性急過ぎた気がした。そこがちょっと惜しかったかな〜。最初の編集では3時間ぐらいあったものの、最終的に2時間5分に圧縮!お話自体に大きな変化はないそうだが、筆者の指摘した<残念な部分>は最初の3時間バージョンではクリアーしていたのかも知れないけど(是非「未公開シーン」はDVDに入れてくれ)。

 「愛のむきだし」や「冷たい熱帯魚」の全体的な完成度は越えていないと思うけど、園子温作品への“ファースト・コンタクト”にはいい作品だと思う。今作を気に入った若人は是非、過去作品も観て欲しい。また来年、新作も公開するし^^



 そして2本目は映画「凶悪」。2007年に月刊誌「新潮45」に掲載された、世に言うところの<茨城上申書殺人事件>の映画化である(もち実話)。

 上司の指示でジャーナリストの藤井(=山田孝之)は、死刑判決を受けているヤクザ・須藤(=ピエール瀧)が送ってきた手紙を手に刑務所を訪れる。彼は未だ世に出ていない3件の殺人事件があり、その全ての事件の首謀者は仲間内で“先生”と呼ばれていた木村(=リリー・フランキー)だと名指しする衝撃的な内容だった。半信半疑ながらも取材を開始した藤井は、須藤の話が真実だと確信。上司の中止命令を無視して取材に没頭していく。その中で浮かび上がってきた恐るべき事件の全容とは・・・!?


 ・・・これねぇ、凄い内容ですよ。観終わった後、気分がド〜ンと重くなったもん。同じ<実話の映画化>でもベン・アフレックの「アルゴ」やフランス映画「最強のふたり」とは全く違うので(2本ともそれぞれ面白かったが)<実話映画ファン>の方はご注意あれ!事件について詳しく知りたい人は、すでに文庫本にもなっているのでそちらを読んでネ❤

 石井隆の諸作も<人間の暗黒面>を描いてるけど、今作は・・・もう遊びながら人殺してる分(罪の意識まるでなし)、残酷度MAX!!それをこれまで“いい人キャラ”で売ってたピエール瀧リリー・フランキーの2人がリアルに演じてるんだもの、その恐ろしいことハンパない(→日頃怒らなさそうな人ほど、怒った時は本当に怖いものなのよ)!リリーさんは今作を同時期公開の「そして父になる」の後に観て欲しいとコメントしてる(笑)。筆者もしばらくリリーさんを・・・ノーマルな人に観られないかも(苦笑)!?

 監督・共同脚本はこれがデビューして2本目となる白石和彌(故・若松孝二のスタッフ)。原作のルポタージュを映画的に脚色しながらも(→ちなみに主人公は会社で孤立したり、家庭の問題も抱えていたけど、実際の記者はそんなことは何もなかったって^^)犯行の様子を忠実に再現することに心をくだいた(映画を観たモデルの記者も感心した程)。白石監督の次回作は要チェックだろう^^

 映画自体はハイパー凶悪犯の実態を淡々と描きつつ、善・悪、多様性を持つ“人間という生き物”を諸問題抱える<現代日本>と共に見事に描き出した。人間が持つ「怖いもの見たさ」は「映画」という娯楽産業において大きな“売り”の一つだが(←それ故にホラーやスプラッターというジャンルが存在している)それだけで観るのはもったいない!同じ人間がやったことに戦慄しつつ、映画が内包している様々な要素について(ネタばれするんで詳しく書けないのが辛いとこだが)あれこれ考えてほしい重要な一作。激推し!!



<どうでもいい追記>日本映画は今後、実写版で「ルパン三世」を製作するという恐ろしい事態に・・・!名作アニメをそこまで無理して作る必要あるの??ハリウッド並に日本映画の企画の枯渇ぶり&貧困さに唖然とする今日この頃・・・(涙)。