其の605:ポラさん流サイコ・ホラー「ローズマリーの赤ちゃん」

 いきなり関東も梅雨入り!あぁ、嫌だ嫌だ嫌だ・・・。

 筆者は<世代の問題>でスピルバーグリドリー・スコットタランティーノティム・バートンらの作品はその大半をリアルタイムで観ているけれど、筆者が生まれる前から撮っている監督の作品はいかんせん“後付け”になる訳で・・・敬愛するヒッチコックキューブリックも大半が“後付け”だ。つい最近ふと気づいたのが・・・大半が“後付け”ながらロマン・ポランスキーの作品もその大半を観ていたこと(驚)!!知らず知らずのうちポランスキーもファンだったとは・・・(最初どれを観たのかはすっかり覚えてないが)。そこで隠れポランスキーファンとして(笑)、オカルト風味のサイコ・ホラー「ローズマリーの赤ちゃん」(’68・米)を!これも大メジャーで申し訳ないけど・・・散々評論された「ゾンビ」や「悪魔のいけにえ」とかを書くよりはいいかと思った次第^^。これも今ではこのジャンルの古典ですな!


 アメリカ・ニューヨーク。二流の俳優ガイ(=ジョン・カサヴェテス)と妻・ローズマリー(=ミア・ファロー)はマンハッタンの歴史ある高級アパートメントに引っ越しを決めた。だが2人と親交のある老作家によればそのアパートは過去に猟奇事件が起きた“いわくつき物件”だと言う。無事に引っ越しを済ませたある日のこと、ローズマリーが地下室で洗濯をしていると、隣室に住むカスタベット夫妻の養女と知り合った。ところが程なく、彼女は謎の転落死を遂げる。それをきっかけに老夫婦とも会話するようになった2人は夕食を共に。それ以降、ガイは夫妻と親密なつきあいを始めるようになる。すると、ガイのライバル俳優が急に目が見えなくなり、彼に主役がまわってきた事で多忙となり、夫婦仲がギクシャクし始める。そんなローズマリーの心中を察してか、ガイは「赤ちゃんを作ろう」と言い、彼女も同意する。その日の夜、ミニー・カスタベット(=ルース・ゴードン)からのデザートを食べたローズマリーは目まいがして意識を失ってしまう。その夜、彼女は悪魔に強姦される悪夢を見る。翌朝、彼女の身体には妙なひっかき傷が多数ついていた。後日、ローズマリーの妊娠が判明するが・・・!?


 「死の接吻」ほかで知られる作家アイラ・レヴィンの同名小説の映画化。ロマン・ポランスキーの初ハリウッド作品にして、自ら脚本も書いている。ところが彼が今作と係ることになった経緯がちょっと面白い^^

 そもそも原作の映画化権をゲットしたのはウィリアム・キャッスル!!「地獄へつづく部屋」(’59)や「13ゴースト」(’60)、「第三の犯罪」(’61)、「血だらけの惨劇」(’64)・・・といったB級サスペンスやホラー映画を製作・監督したお方(しかも量産)。びっくりする場面で劇場の椅子に電気を流したりする<ギミック(仕掛け)>で一時期人気を博した。あくまでも作品は“B級のキワモノ”だけど(笑)。当初、キャッスル自身は監督する気マンマンだったが、スタジオ側は難色を示す。そこでポランスキー作品を以前から気に入っていたプロデューサーが本人に「スキー映画(←スキーに興味をもっていたことを知っていた)をハリウッドで撮らないか?」と声を掛けてアメリカに呼び、会った途端に「スキー映画よりもこれ読んでくれ!」と原作のゲラを渡す騙し討ちに(苦笑)。ポラさんもビックリ仰天したそうだが、本を読んで魅了される。そこでスタジオ側がキャッスルに彼を紹介し、キャッスルは快く製作サイドに回ったというハリウッドらしい逸話あり。

 ポランスキーの演出は、若い妻(ミア・ファロー)の日常がじょじょに不穏な空気を帯びてくる様を緻密に積み重ねてゆく。途中途中にヒロインが見る夢のシーンも印象的。キャッスルが演出したら、もっとハッタリ効かせたビックリ演出で脅かしてくれるだろうが・・・この原作にはちょっと、ね・・・。結末をいろいろ解釈できるようにした点も含めてポランスキーが監督で良かったよ^^。おかげで映画もヒットして一躍<オカルトブーム>が起きた事だし。

 一番の見所はやっぱり主役のミア・ファローの演技でしょう。原作はいかにもアメリカ的な明朗キャラだけれど、ナイーブで線の細い彼女が演じたからこそ、あのストーリー展開(ネタばれになるので書けないが)にリアリティーを与えたと思う。もっとも今作撮影後、結婚していたフランク・シナトラ(あの歌手のシナトラよ)と離婚、後年、パートナーとなったウディ・アレンとトラブルにもなる訳だが・・・まぁ、それは別のお話。彼女のほか、インディーズ映画の監督でも知られるジョン・カサヴェテス(→かの「グロリア」の監督。奥さんはジーナ・ローランズ!)と「ハロルドとモード」のモードことルース・ゴードンが出ているのも、筆者的にはポイント高い❤

 ミア・ファローの他にも書かなきゃいけないのはポランスキーの<この後>!前作の「吸血鬼」(’67・英)に出演した女優シャロン・テートと結婚していたが、翌69年8月、妊娠8ヶ月のテートが自宅でチャールズ・マンソン率いるカルト教団に惨殺される事件が発生。今作で彼らに目をつけられたのかどうかは筆者は分からないけれど・・・これはハリウッドの映画史に永遠に残る<黒歴史>のひとつとなった。

 更にその後のポランスキーの私生活での事件(淫行事件起こしてヨーロッパへ逃亡)も映画ファンとしては興味あるところだが、それとは関係なく「ローズマリーの赤ちゃん」が秀逸な作品である事は間違いない!!
 
 
 ちなみに舞台のアパートメントの外観はジョン・レノンオノ・ヨーコが住んでいたことでも有名な「ダコタ・ハウス」。そのジョンが射殺されたのは奇しくも「ダコタ・ハウス」の前!・・・これも“何か”の影響なのかしら・・・!?(←単なる偶然です)