其の246:コーマンプロデュース「ビッグバッドママ」

 昨今は映像派リドリー・スコットでさえ手を出す「実録ギャングもの」だが(=「アメリカン・ギャングスター」)かつて監督、今や映画ファンなら誰もが知る大物(?)プロデューサー、ロジャー・コーマン(日本的には危ない名前なので連呼しないように)が製作を手掛けたギャング映画「ビッグバッドママ」(’74)は掛け値なしに面白い^^ジェリー・ブラッカイマーだけがプロデューサーではないのですよ(笑)。主演は「リオ・ブラボー」のアンジー・ディッキンソン。ブライアン・デ・パルマの「殺しのドレス」でのヌードは実は本人じゃないんだけど、今作ではマジ脱ぎ!マ○毛も披露してます(爆笑)。


 1930年代、大恐慌下のアメリカはテキサス州に実在した強盗ファミリー「ケイト・バーカー一家」をモデルに、男まさりのお母ちゃん(アンジーです)とその娘2人が暴れまくるナイスな映画(=実際にはお母ちゃんと息子4人)。アクション、バイオレンス、そしてエロ(3人とも脱ぎあり)!これこそ真のB級娯楽作(中でもクライマックスの15分に及ぶ銃撃戦は凄いよ)!これ以上、映画になにを求めようって言うんだい?(笑)


 今観ると「スタートレック」のカーク船長ことウィリアム・シャトナーや「エイリアン」、「トップガン」のトム・スケリットも出ているお宝映像作品(?)。監督のスティーヴ・カーヴァーは余りにマイナーなんで言及しません(笑)。やはり、ここでは「B級映画界の帝王(筆者勝手に命名)」コーマンについて語るべきだろう。


 ロジャー・コーマンは1926年、デトロイト生まれ。55年に西部劇「あらくれ五人拳銃」で監督デビューして以来、あらゆるジャンルにおいて低予算の娯楽映画を連発した(=「アカデミー賞を取ろう」等の野望は皆無)。60年からティム・バートンがファンと公言するヴィンセント・プライス主演の「アッシャー家の惨劇」をはじめとした一連のエドガー・アラン・ポー原作の映画化によって一般的にも知られるようになる(江戸川乱歩がこのポーの名前をもじってペンネームにしたのは有名なお話)。
 この60年代からプロデューサーとしても活躍するようになり、若者にチャンスを与え(=ギャラが安くて済む)観客が好む作品を短期間で大量に作らせた(笑)。このこき使われた中から「ゴッドファーザー」のフランシス・コッポラや「ラストショー」のピーター・ボグダノヴィッチ、「タイタニック」のジェームズ・キャメロンに「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ、「グレムリン」のジョー・ダンテらが世に出てくるのだから・・・人生とは何がどう幸いするか分からんものだ(苦笑)。
 71年の「レッド・バロン」で監督業を引退してからはプロデューサーに専念。以降も数々のB級映画を発注しては安く作らせた。彼の方法・・・それは話題作を速攻でパクり、セットや小道具は何度でも使い回す。スタッフも出演者も安く使える人で固めて一丁上がり(笑)!彼は映画を売るためならどんな手段も使った。ある映画の上がりを観たコーマンは「これじゃ客が来ない」と判断。「予告編」に全然関係ないカーアクションとヌードを足した(=勿論、映画本編にはそんな場面なし)。
 90年には「私はいかにしてハリウッドで100本の映画を作り、しかも10セントも損をしなかったか」という自伝を発表。いかに自分が<うまい商売人>であるかを豪語した。まぁ、腕はそこそこでもそういう才覚がある人って何の業種でもいるけどさ(笑)!


 今作「ビッグバッドママ」に話を戻すと、そもそもこの実在したバーカー一家をモデルにした映画は数多くあり(=ジェームズ・キャグニーの「白熱」やロバート・アルドリッチの「傷だらけの挽歌」もそう)コーマン自身、70年にバーカー一家を史実に忠実に描いた「血まみれギャングママ」を監督している(お母ちゃんにはシェリー・ウィンタース、息子のひとりにロバート・デ・ニーロ!)。その過去ネタを使いまわしたのが「ビッグバッドママ」なのだ。
この無駄のないタイトな<売れ線娯楽作>で気をよくした彼は翌年「クレイジー・ママ」(監督ジョナサン・デミ!)、79年には「赤いドレスの女」とさらにネタを使い続ける。さすが「帝王」だ(笑)。


 映画などと言うのは一流スターが出ていて、どんなに金がかかっていても「底抜けトホホ作」と化した作品は既に山のようにあり、残念ながらこれからも作られるのだろうが・・・たとえノー・スターで予算がB級、C級クラスであろうとも結果として面白ければいいのだ。そんな小品ながらも面白い作品がこれからも出てくる事を切に希望します。でも日本人って、まだまだ出来不出来よりスターとバジェットの規模で判断する人が多いんだよねぇ・・・(溜息)。