其の234:人類に未来はあるか「トゥモロー・ワールド」

 久々に「SF作品」の更新です^^前にも書いたけど筆者の少年時代は「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」ほかSF映画が花盛り(「禁断の惑星」とかが公開された時代が<第1次SFブーム>だとしたら<第2次ブーム>ぐらいに当たるのでは)!A級からZ級までリアルタイムで観せて頂きました(笑)。そんなこともあって、SF映画にはちとうるさい筆者なのですが(あとロボットアニメね)「トゥモロー・ワールド」(’06 米=英)は面白かった!感触的には「ブレードランナー」や「未来世紀ブラジル」に通ずる<暗い未来世界>を描いた作品です(ビーム銃撃ちまくるような派手な映画じゃないので、そちら系がお好みの方には薦めまへん)。「ベネチア国際映画祭」オゼッラ賞(技術貢献賞)受賞。


 西暦2027年。テロや内戦が相次ぎ、世界中が混乱の極みにある時代。おまけに人類は18年前から女性が妊娠できなくなり(=原因不明)、ゆっくりと確実に滅亡の道を歩んでいた。中でもイギリスは当局が移民者たちに対して厳しい取り締まりを行っていた。そんなある日、エネルギー省官僚のテオ(「シン・シティ」のクライヴ・オーウェン)は元妻のジュリアン(「ハンニバル」のジュリアン・ムーア)率いる地下組織「FISH」に拉致される。実は彼らが匿う移民の黒人少女キーが<妊娠>しているので、セオの力を借りて当局の目を逃れて人類救済組織「ヒューマン・プロジェクト」に彼女を届けようとしていたのだ。最初は協力を拒否するセオだったのだが・・・。


 英国の女流作家P・D・ジェイムズ原作「人類の子供たち」の映画化。少子化に悩む日本ではシャレにならない設定である(苦笑)。監督、脚本(共同)は「天国の口、終わりの楽園。」(’01)が高く評価され「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(’04)に抜擢されたアルフォンソ・キュアロン(メキシコ人)。「リトル・プリンセス」や「大いなる遺産」撮ってた人が、まさかここまでヘヴィーなSFを作るとは思わなかった(驚)!


 筆者は常々「SF映画」はしっかりした<世界観>を構築する為にも「美術」に金をかけないとダメだと思っているのだがー今作の舞台ロンドンはゴミだらけ、落書きだらけで猥雑(=合格です^^)!
で人々の「衣装」もいまいちムサい(昔のSFならツルツルピカピカの衣装:笑)。移民を取り締まる当局の描写などはユダヤ人をゲットーにぶち込むナチそっくり!!荒廃しきった絶望的世界をビジュアル的にも作り上げる事に成功している。それをほぼ全編「手持ちカメラ」で淡々と撮っているから・・・より一層リアルに感じられるのだ。
主人公のクライヴ・オーウェンは官僚にみえないぐらいヤサグレてるし(笑)、隠遁生活をおくるインテリに扮する名優マイケル・ケインはロン毛でみすぼらしい。俳優陣も見事に「この世界に生きている」。


 この映画を一言で表現するなら<突然の連続>という事になろうか。突然の「不妊」に始まり「テロ」、突然の「拉致」、突然の「襲撃」に突然の「死」そして「裏切り」。「拉致」や「襲撃」を予告する奴もそんなにいないとは思うが(笑)、主人公にとっては全てが「突然」の連続によって、少女キー(=文字通り「人類の鍵」)を守るため行動する事となる。
中でもキュアロンが徹底的にこだわったというクライマックスの「8分間の長回し」は、主人公が市街戦が行われている中(=突然の「発砲」と「爆発」の連続)を少女キーを探して進んでいくのだが・・・これが戦場カメラマンが撮影するドキュメンタリー映像に酷似(飛び散った血がレンズについたりする)!勿論、狙ったのだろうが・・・その迫力たるや尋常ではない。この場面を撮影するためにスタッフと俳優は相当リハーサルしたんだろーね(笑:聞いた話では背景は合成らしいが)。


 冒頭で挙げた「ブレードランナー」も「未来世紀ブラジル」も深いテーマを内包している作品だが、今作も「少子高齢化」や「テロ」、はたまた「移民(イタリアなどは近年、地中海を渡ってくるボート・ピープルが社会問題になっているそうだ)」などなど様々な社会問題を読み取る事が出来る。昭和30年代の人々と違って「決して明るいだけじゃない未来」を知っている我々21世紀を生きる者は、この映画を観て絶対に損はしないだろう。好む、好まないはさておき「ゲド戦記」よりは遥かに面白いぞ(本当)!