其の230:マット・デイモン主演「ボーン」3部作総括!

 先頃、マネーメイキング・スターに選ばれたマット・デイモン。その彼の代表作が「ジェイソン・ボーン」シリーズである。記憶を失った殺しのエージェント(=国家機関に所属)が自らを養成したCIAを向こうに回し「自分の正体」を探るべく世界中を駆け巡る!簡単に言えば「自分探しの旅」という事になるのでしょうが、常に<殺されるリスク>を負っている分、某有名サッカー選手の旅とは質が異なります(笑)。今年、その完結編となる(・・・多分)「ボーン・アルティメイタム」がついに公開されました(筆者も全て観てます)^^。そこで、この3部作をまとめて「総括」!!


 まずは第1作「ボーン・アイデンティティー」(’02)。地中海沖に浮いていた主人公がイタリアの漁船に助けられるが、まるで記憶がない。身元を知る手がかりはスイス・チューリッヒにある相互銀行の口座番号が記されたカプセルだけ。そこで銀行に行ってみると、貸し金庫に入っていたパスポートからパリに住むアメリカ人、ジェイソン・ボーンである事が判明!だが、その他にも名前の異なる6冊のパスポートと拳銃、多額の現金が預けられていた。このチューリッヒから何者かにつけ狙われるようになり、パリの自宅アパートに戻るやいなや、暗殺者が!!ところが彼は何故か物凄い戦闘能力を発揮して、これを撃退。どうやら自分はいけない仕事をしていたようだ・・・。自分の<アイデンティティー(存在証明)>を明らかにする為、彼の旅が始まった!

 という感じで展開されるナイスな第1作(面白そうでしょ)。ロバート・ラドラムの同名小説(日本の出版タイトルは「暗殺者」)に惚れ込んだ監督ダグ・リーマンが映画化権を取得。ラドラム了承の下、自身と2名の脚本家を加えて脚色に当たった(原作は「東西冷戦下」の時代だったので)。リーマンらは登場人物の基本設定と物語の概要は原作を活かしつつ大幅な変更を加える事にする(暗殺者養成プロジェクト「トレッドストーン計画」は映画オリジナルのアイデア)。こうして観客はボーンと同じ視点で彼の過去と背後にある陰謀を知る事となるスリリングな脚本が完成した。

 当初、主人公ボーンにはブラッド・ピットがオファーされたが他の仕事が入っていたため断わられ、続いて2番目の候補だったマット・デイモンに決定する。マットは長期間の減量&格闘技のトレーニングに精を出し、果敢にアクションに挑んだ。結果、それがリーマンの狙い通り脚本の妙との相乗効果で「スーパーマンではないリアルな人物と作品」として観客に受けた!
ボーンは相手の裏をかく「頭のいい男」でもあるのだが、マットは名門ハーバード大出の<インテリ>である事は周知の事実だし、作品自体も「リアルさ」を徹底して狙っており(例えば、各国の大都市を廻るが、観光スポット的風景は皆無)、撮影ではカメラマンに敢えて俳優の動きを教えず、彼らの動きを後追いさせたりした(=ドキュメンタリーの取材方法)。また、アクションも決してハリウッド的な派手さではなく、あくまでも「実戦」を基調に振り付け。「秘密兵器」を駆使して派手に暴れる「007(=彼も殺しのエージェント)」とは真逆の作風である。「機動戦士ガンダム」や「装甲騎兵ボトムズ」同様、これぞ「リアル」路線(笑:例えが変だな)!映画がヒットした為、当然「続編」が作られる結果となる。


 
 シリーズ第2作「ボーン・スプレマシー」(’04)。前作から2年。「トレッドストーン計画」の発覚を恐れたCIAのメンバーを見事倒したボーンは、まだ全ての記憶を取り戻してはいないもののおねーちゃんとインドで逃亡生活を続けていた。だが、またまた彼の前に暗殺者が出現!あっさりおねーちゃんは××された上(ネタバレのため伏字)、身に覚えのない事件の「容疑者」にされている事が発覚。こうしてボーンは「彼女への復讐」と「身の潔白」を証明するため、再度危険な旅に出る!!

 今作の監督はポール・グリーングラス(リーマンは前作の撮影中からスタジオと揉めに揉めたため監督を降り、「製作総指揮」に)。彼は「前作の良さ」を継承しつつ、ストーリー的にも演出においても更なるパワーアップを目指す(その分、原作の「殺戮のオデッセイ」とはまるで異なる内容に)。
 前作ではステディカムと手持ちカメラによる撮影を併用していたが、今作では全編に渡って手持ちカメラを採用!「俳優が考えすぎると演技にリアリティが失せてしまう」という自論の下、時にはリハーサルなしで本番。これが前作以上の「臨場感」を生み、まるでボーンに密着しているかの如きカメラワークに!さらに「編集」では小刻みにつないでいって総カット数、実に3500カット!この編集は・・・大変だっただろうなぁ(笑)。ダークな物語にハイテンションで繰り広げられるアクションの数々によって公開された映画はあっさり前作越え!こうして第3弾の製作も決定した。


 
 そして(今のところ)シリーズ最終作「ボーン・アルティメイタム」(’07)。CIAの女性メンバー・パメラ(演じるのはジョアン・アレン)から<本名>と<生年月日>を明かされたボーンが歩き去るところで前作は終わるが「アルティメイタム」は、それからお話が直結!パリからロンドンに向う途中、新聞で自分の写真と「トレッドストーン計画」の記事を目にしたボーンは、情報元を知るべく記者と接触を図る事に。だがCIAの現地要員に監視されていた記者は××された上(=ネタバレ防止)、新たなプロジェクト「ブラックブライアー計画」が発動された事を知る・・・!

 今回のボーンの目的は「何故、自分は名を捨てて殺人マシーンになったのか?」という物語の根本を解き明かすこと。最終作とあってか映画は、これまで以上にハイテンポな展開!モスクワに始まってパリ、ロンドン、スペインのマドリッド、更にはモロッコのタンジールを経てニューヨークへ・・・ちょっと目を離すと話が分からなくなるので御用心(笑:ホント)。
 監督は「スプレマシー」のグリーングラスが好評を受けて再登板!彼は今作の前に「9.11」を扱った実話「ユナイテッド93」を監督した経験を活かして更なる迫力ある画面作りをしている(マット自身も「3本の中で一番大変だった」とコメント)。原作「最後の暗殺者」はもう影も形もない(笑)。
おまけにストーリー展開同様、編集リズムも更に速くなり(カット数4200!)、特に「格闘シーン」では手持ちカメラでピンボケしてるカットも挿入している分、迫力はあるものの何をしてるかわからないカットも少々あり(苦笑)。
 作品自体は最後の謎に向ってひたすら突き進むので見せ場、山場の連続!ダレる部分がまるでない。1作目にあった余計なラブロマンスとかもないので「熱き漢(おとこ)の映画」としてまとまっており「放浪人ボーン」の締めくくりにふさわしい出来栄え(ちなみに「ゾーン」は「流星人間」:古っ)。
ただあえて「欲」をいえば「ラストカット」はーあれではなく、清々しいボーンの表情とかで終わってくれた方が締めとしていいような気もしたが・・・まっ、いっか(笑)。いずれにせよ(渋い作風ながら)全3作とも高水準で終わるシリーズも珍しい。「レベルの高いアクション映画」として今後も永く語り継がれてゆく事だろう^^下手な続編(「ボーン・ビギニング」とか)は作らないでほしい(祈)。


 
 <蛇足>年末、ニコラス・ケイジ主演「ナショナル・トレジャー」の続編が公開されますが、今度はリンカーン暗殺の謎に迫るお話!ボーン・シリーズといい「超大国アメリカ」には「陰謀」や「謀略」は欠かせない要素のようですな(苦笑:恐ろしい国だ)。