其の229:これぞ映画の醍醐味「エネミー・ライン」

 「映像」が持つ素晴らしい特性として、実際には目にする事のできないものが表現可能であったり、乗り物のスピード感を「擬似体験」させてくれる事等が挙げられるだろう。ドラマ「ガリレオ」のように主人公(=天才)の「思考行程」を第三者が見ることなぞ実際には出来ないし(笑:勿論、イメージ映像だけど)、カーチェイスなどはいくら文字を費やしても、やはり目でその速さを体感できる映像には(残念ながら)劣る。
映画「エネミー・ライン」(’01)はそんな「映像の特性」を活かしつつ、アクションの醍醐味を存分に味あわせてくれる隠れた傑作(日本公開時には余り話題にならなかったけど)!男はこれを観ずには死ねませんぜ^^


 旧ユーゴスラビアの民族紛争が一応の解決を見、NATO軍(米軍含む)との停戦が結ばれた1990年代初頭のボスニア。海軍大尉クリス(オーウェン・ウィルソン)は、ひたすら洋上の空母から陸地の偵察をするだけの任務に嫌気がさし、除隊を考えていた。丁度その時、彼は上官のレイガート少将(ジーン・ハックマン)から「ボスニア上空の写真撮影」の命令を受け相棒を伴い戦闘機で出発する。本来の飛行コースを外れて上空を進んでみると<非武装地帯>である筈なのに、密かに展開している軍隊(=実はNATO軍に申告していないセルビア人民軍)を発見!部隊の「撮影」に成功したものの、彼らから地対空ミサイルの攻撃を受け撃墜されてしまう。九死に一生をえたものの、墜落現場に現れた人民軍によって仲間は処刑!かろうじて敵の攻撃を逃れたクリスは救出作戦が行われる「安全地帯」まで決死の逃避行を試みる・・・!


 監督のジョン・ムーアは「報道カメラマン」から「CMクリエイター」、そして「映画監督」になった変り種(本作が初監督)。映画にはそんな彼のキャリアが存分に活かされている。CM的映像技術(今時の早いカッティングや早回し、360度パンにスローモーション、イメージ映像・・・えとせとら)を存分に駆使して凝った映像を見せつつ(CGでありながら、地対空ミサイルに追われる戦闘機の飛行シーンはど迫力!!これほどまでの迫力とスピード感は「映像」でなくては出せませぬ)その一方、内戦で疲弊したボスニア国内の様子やアクション場面は「手持ちカメラ」を多用しドキュメンタリータッチで表現。報道カメラマン時代、実際にボスニアで取材した経験があるそうなので、それを踏まえて映像のトーンを使い分けたと思われる(ちょっと「プライベート・ライアン」を思い出した)。場面場面で最も適切な映像を選択したムーアの腕前は大したものだ。彼にとっては「雇われ仕事」ではあるのだが(=企画は別の人)、この作品においては彼以上の「適任」はなかろう。


 「主人公の設定」も相当、皮肉めいている。いくら「軍人として実際に戦いたい!」とは思っても、敵の真っ只中で孤立無援のサバイバルを強いられるとは(武器は拳銃一丁のみ)・・・これが本当の「戦争を知らない子供たち」(苦笑)。森や岩場のほか、手榴弾が仕掛けられ「地雷原」と化した市街地を必死に進むクリス。そんな彼をオーウェン・ウィルソンがシリアスに好演!筆者的には「コメディ」のイメージが強いんだけど(作中にもヤンキー気質丸出しのトークあり)、かの「アルマゲドン」や「シャンハイ・ヌーン」(共演はジャッキー・チェン!)にも出演しているだけあって、しっかりアクションもみせてくれます!最後には香港時代のチョウ・ユンファ並のガンさばきも披露する(笑)。


 共演のジーン・ハックマンオーウェンとは異色コメディ「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」でもご一緒してる)は、オスカー俳優ながら「地獄の7人」や「クリムゾン・タイド」ほか「戦争アクション映画」の常連中の常連!今作では「部下思いの情に厚い軍人」を演じてます(いつもの事ながらうまい)。主人公の「救出作戦」を立案するものの、嫌な上官にストップをかけられて苛立つ・・・のはハリウッド映画のお約束の展開(笑:「ランボー 怒りの脱出」の「トラウトマン大佐」状態)。実際、勝手に行動したらNATO軍の手前まずいんだけど、そこも「仲間は必ず助ける!」という米軍特有のヤンキー気質って事でご理解を(笑)。
 
 シンプルな話(=敵中突破)でありながら、実際の「外交問題」を背景に「男の熱い友情や心意気」を描きつつ「スリル」、「サスペンス」そして「アクション」のつるべ撃ち!全くダレる事なく展開する至福の106分(=上映時間。下手に長いよりコンパクトでいいね)。ネーちゃん(空母の乗組員とかボスニア人女性も登場はするけど)とのロマンスがないのも清々しくてGOOD。これぞ「男の映画」だと断言しよう!!

 
 <追記>先日、再発されたばかりの「七人の侍」のDVDを購入して観たのですが、やっぱり面白い!ラストの大バトルはそれこそ迫力満点だ(その昔、劇場でも観たけれど)。さすがに「邦画の最高峰」と言われるだけの事はありますな^^しかし、もうこんな映画は日本では作れないだろうなぁ・・・。