其の527:ダレ場一切なし「日本のいちばん長い日」

 <東京大空襲>から69年目ということで・・・<東日本大震災>といい、「3月」とは日本人にとって本当に辛い歴史のある月だよね・・・。
 ということも踏まえつつ今回紹介するのは「日本のいちばん長い日」(’67)!岡本喜八監督による超濃密な“教科書では教えてくれない裏日本近現代史”だ(知ってる人は知ってるけど、知らない人は全く知らない史実)。日本がいかにして終戦を迎えたのかが分かる勉強にもなる一作^^


 戦局が圧倒的に不利になってきた昭和20年ー。7月26日、日本に無条件降伏を求める米・英・中の「ポツダム宣言」が海外放送で傍受された。翌27日、鈴木総理大臣(=笠智衆)以下、緊急閣議が開かれたものの、結論は先送りに。だが8月6日、広島に原爆が投下。8日にはソビエト連邦が参戦し、日本の運命は風前の灯となる。「第一回御前会議」において天皇(=先代の松本幸四郎)が戦争終結を望まれ、10日・政府は天皇の大権に変更がないことを条件に「ポツダム宣言」を受諾する旨を通知した。12日、連合国側からの回答があったものの、天皇の地位に関しての条項に関する解釈に論争が起こり、阿南陸相(=三船敏郎)はこの内容では受諾出来ないと反対する。しかし、「特別御前会議」において天皇終戦を決意、正式にポツダム宣言受諾が決まる。この一連の間に<本土決戦>を主張する“終戦反対派”の陸軍青年将校らは密かにクーデターを計画する。
 終戦処理のため、天皇による「終戦詔書」を録音し15日正午、全国にラジオ放送することが決った。この一報を受けてクーデターを画策したひとり、畑中少佐(=黒沢年男)は近衛師団長・森中将(=島田正吾)に決起を進言する。時を同じくして「厚木三〇二航空隊」の小薗海軍大佐(=田崎潤)は徹底抗戦を部下に命令、また「東京警備軍」横浜警備隊長・佐々木大尉(=天本英世)も首相や重臣を襲って降伏を阻止すべく隊を動かす。15日・深夜1時、畑中少佐らは説得に応じない森中将を殺害、放送を中止すべく、近衛師団司令を偽造。宮城(→読み「きゅうじょう」:皇居のこと)と放送局の占拠を実行する。「玉音放送(→玉音とは“天皇のお声”の意)」まで残り11時間ー!!


 昭和38(1963)年、「文藝春秋」終戦当時を知る人々を集めて話を聞く特別座談会が掲載。更に取材を進めてまとめた単行本「日本のいちばん長い日 運命の八月十五日」が原作。クレジット上はジャーナリスト・評論家の大宅壮一名義なれど、実際は当時文藝春秋の編集者(後に作家)半藤一利の手によるもの。タイトルの「日本のいちばん長い日」とは、昭和天皇や閣僚たちが御前会議において降伏を決定した昭和20(1945)年8月14日の正午から、「玉音放送」を通じて国民に「ポツダム宣言」の受諾を知らせる8月15日正午までの24時間を指す。

 脚本を担当したのは橋本忍。政府首脳の様子に加え、陸軍将校のクーデター(世にいう「宮城事件」)や厚木飛行場の小園大佐の反乱ほかを手際よくまとめている。描く内容が多い分、ナレーションも多いが(苦笑)。さすが黒澤組脚本家メンバー!!このホン、書いた人がとても後年「幻の湖」やった人と同一人物とは思いたくないけど・・・(哀)。

 監督は先述した通り岡本喜八。企画当初は小林正樹監督(→「人間の条件」や「切腹」他で知られる巨匠ですよ、巨匠)が予定されていたのだが、プロデューサーと意見が衝突して降板。脚本の橋本忍の推挙によって本作を担当することになった。終戦当時21歳、予備士候補生だった岡本は「同窓生の多くの命を奪った戦争がいかにして終わったのか、いささかの曖昧模糊も許さずに知りたい」と考えて取り組んだという。ラストの方で青年将校たちが走り回る広場は本物の皇居・二重橋前(普通は撮影許可下りない)!岡本は逮捕を覚悟の上でゲリラ的にロケを敢行したといわれている。彼の並々ならぬ熱意が伝わってくるエピソードだ。

 「独立愚連隊」シリーズで戦争映画に西部劇テイストを持ちこんだ岡本、今作をあえてモノクロで撮影。その白黒映像が“当時のニュース映像的重厚感”を醸し出している。また彼ならではの決め決めの構図にシャープなカッティング編集(岡本が撮影前、緻密な絵コンテをきることは有名なお話)!!158分の長尺かつ歴史を知らないと小難しい実話を全くダレさせずに一気に見せるのは何よりテンポがいいから(さすがっす)!!ジャンルとしては「戦争映画」なんでしょうけど、こういうお話なのでさほどアクションシーンは出てきませんが<森中将殺害シーン>はド迫力!!濃密な緊張感を維持しつつ、最後まで押し切った作品として連想するのはヘンリー・フォンダの「十二人の怒れる男」やイヴ・モンタンの「恐怖の報酬」、オリバー・ストーン監督の「JFK」他があるけど、この作品の完成度もそれらの諸作に匹敵しよう。

 キャストも基本、東宝の所属ながらオールスターキャスト!!「世界のミフネ」こと三船敏郎を筆頭に、志村喬宮口精二加東大介の「七人の侍」メンバーの他、佐藤允(「独立愚連隊」主演)、天本英世高橋悦史の“岡本組常連俳優”に加えて黒沢年男加山雄三山村聰小林桂樹伊藤雄之助中谷一郎神山繁、「ゴジラ」ほか一連の<東宝特撮もの>でお馴染み平田昭彦田崎潤、小泉博、土屋嘉男に筆者の好きな「金田一耕助シリーズ」の加藤武も出演!!もっと大勢有名人いるんだけど・・・書ききれまへん。ほとんど男オンリーなんだけど、1シーンのみ新珠三千代が出てる。これだけの人たちのスケジュール組むのは・・・大変だったろうなぁ。あと現場の控室と弁当のランク分けも(笑)。

 
 筆者は仕事の移動中、クルマで皇居周辺を通る度「幕末の桜田門外の変とか皇居周辺はいろんな歴史があるんだよな・・・」との感慨にふける。こうした知られざる終戦秘話を一部の日本人しか知らないのは非常に残念なこと。自衛隊集団的自衛権憲法解釈など色々騒がれている昨今、全ての日本人が今作を観て、改めて戦争と軍隊について考える必要があるのではないかしら!?