其の210:無責任男とツンデレ女「マッチポイント」

 映画監督は「職業」が「映画を作る」事なのだからコンスタンスに作品を発表するべきだと思うのだが、いかんせん「興行」が絡んでくる分なかなか難しい。大コケした映画を作った日には何年も干されてしまうし。その点、才人ウディ・アレンはコンスタンスに良質な作品を作り続けている稀有な存在といえるだろう。筆者は熱心なアレンのファンではないのだが(ユダヤ・ジョーク満載のアレン作品は日本人はその半分も理解していないと言われる)久々に観た「マッチポイント」は面白かった^^「マッチポイント」といっても「テニスの王子様」みたいな話じゃないからね!


 アイルランド人の貧乏テニスプレーヤー、クリス(「ベッカムに恋して」、「M:i:Ⅲ」のジョナサン・リース・マイヤーズ)はイギリスの上流社会に憧れる野心家。経歴をかわれて高級テニスクラブのコーチになった彼は、金持ち息子のトムと親しくなる。トムにはアメリカから来た女優志望のフィアンセ、ノラ(「ロスト・イン・トランスレーション」、「ブラック・ダリア」のスカーレット・ヨハンソン)がいた。彼女の美貌に魅かれるクリス。時を同じくしてトムの妹クロエに気に入られた彼は、彼女の強い推薦もあって兄妹の父親が経営する証券会社で働くこととなり裕福な暮らしが実現する。クロエと交際しているものの、ノラが忘れられないクリス。ある時、ひょんなことからクリスはノラと一線を越えてしまう。
 やがてクリスはクロエと結婚、社内で重役の地位を得るもののトムと別れたノラと浮気を続ける。やがてノラが妊娠。クリスはクロエを取るかノラを取るかの選択を迫られる。追い詰められたクリスがとった行動はー!


 ・・・とまぁ、あらすじを書くと、どこにでもある下世話な男女の話。まるで三流週刊誌の読者投稿の記事みたいだ(笑)。成り上がりたい男がうまいこと金持ち女と結婚してリッチになるものの、ナイスバディーな美人ともヤリたい。けど、その女を取ると貧乏になるから女房とは別れない・・・と非常に無責任な男が主人公。まぁ、同性なら彼の気持ちもわからないではない(苦笑)。
 で、その相手のスカーレット・ヨハンソンは最初はフィアンセがいるから主人公に冷たく接するも、男と別れて主人公が言い寄ってきたらあっさりHしてしまうツンデレぶり(爆笑:この映画はもしかしたらブラックユーモアなのかも)!要は互いに上昇志向が強い「似た者同士」なのだ(キャリア志向でも「太陽がいっぱい」のドロンほどギラギラしてない)。根幹は同じなのだけれど、アレンがその結果を「成功した男」と「挫折した女」という対になる設定にしたところが個人的には興味深い(理由は後ほど)。


 さて、ニューヨークをホームグラウンドに映画を取り続けてきたアレンが一転、今作ではイギリスはロンドンを舞台に現地で大々的なロケを行ったことで話題になった(本人は出演してない)。アレンの身に何があったのかは不明だが(笑)大変イギリスがお気に召したそうだ。「アニー・ホール」や「カイロの紫のバラ」ほかで見せたトリッキーな演出はないものの、ツボを押えた演出と編集でテンポよく物語を展開しています。またアレンといえば「ジャズ」のイメージですが、今回の音楽は「オペラ」!で、「不倫話」が終盤から突如「サスペンス」に変貌して「ラストのどんでん返し(!?)」で観客を驚かせる大胆な構成(笑)。


 1999年の「ギター弾きの恋」でも今作同様<勝手ちゃんのギター弾き>を主人公(演ずるのはショーン・ペン)にしたアレン。「ギター〜」では女は幸福となり、男が惨めになるんだけど「マッチポイント」では設定が真逆!今作においてアレンがイギリスに行ったのは・・・実はアメリカ国内では作りづらかったからではなかろうか?なんせアレンは妻のミア・ファーローの連れ子の娘(が高校生の時)に手を出して裁判沙汰になったほど(=でしまいにゃその娘と結婚した。興味のある方はゴシップのサイトで調べてね)。だから、いつかその体験を生かして「男が上に行って、女が下になる話(=アレン的リベンジ)」をやりたかった気がするのだ。でも地元じゃ後ろめたいから外国で作ると(笑:ファンの方、ごめんなさいね。勝手な推測デス)。


 今作では「負け組」にされたスカーレット・ヨハンソンですが(笑)、大変アレンに気に入られ(曰く「彼女は芝居が自然だし、未知の可能性を秘めている」)次作「タロットカード殺人事件」にも出演。さらにスペインのバルセロナ(!)で撮影を行った最新作「ウディ・アレン・スパニッシュ・プロジェクト」(原題)にも起用された。まさにアレンのミューズ(妻とは大丈夫か?)!
 齢70になったアレンですが、旬の女優をどんどん起用して、いつまでも若々しく面白い映画を作り続けてもらいたい。