其の211:マカロニ・ウエスタン再考<基本編>

 公開が始まった三池崇史監督「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」を観るのを楽しみにしている筆者ですが(イタリアで作られたえせ西部劇だから「マカロニウエスタン」。で、同じく日本で作るえせ西部劇だから「スキヤキ・ウエスタン」:笑)。このブログでは過去に4作ほど<マカロニウエスタン>の傑作ばかりを紹介しているので(「続 荒野の用心棒」、「ウエスタン」、「殺しが静かにやってくる」、「情無用のジャンゴ」)今更細かい事は書きません。
但し、三池の「ジャンゴ(「続 荒野の用心棒」でフランコ・ネロが演じた主人公の名前。彼の名を勝手に使った無関係作多数)」のおかげで久方ぶりに「マカロニ萌え」してます(笑)。そこでマカロニ&B、C級映画をこよなく愛する友人Sくん提供による超コア作品を交えて「マカロニウエスタン」の世界を改めて考えてみたいと思います(不定期更新で3回予定:笑)。


 1967年の「さすらいのデスペラード」は「続 荒野の用心棒」の助監督フランコ・ロゼッティが初メガホンをとった1本(原案、共同脚本、監督)。「デスペラード」といってもアントニオ・バンデラスではありません(笑)。主演のアンドレア・ジョルダーナ(他のマカロニ出演作に「ジョニー・ハムレット」ほか)の事はかのタランティーノも誉めてます(笑)。これ大作じゃないのだけれど、コンパクトにまとまりつつ&マカロニ的お約束が満載!テキストにはもってこいなのだ。


 米・南北戦争末期、<デスペラード(=無頼漢)>と仇名されるスティーブ(ジョルダーナ)は、ひょんな事から南軍兵士ビルの遺言によって大金の在りかを聞きつけ、彼になりすましてビルの故郷の街へ。ビルの父親は盲目でスティーブを息子だと信じ込む。と、そのとき南軍の軍資金を運ぶ馬車を狙う強盗集団アッシャー一味が街に現れる。アッシャー一味の手助けをする事になったスティーブだがー。


 フジテレビの某朝の情報番組では「マカロニウエスタン」の特徴として①:「ガンマンは早撃ち」②:「ガトリング砲(=レンコンみたいな機関銃)の登場」③:「かっこいい音楽」の3点を挙げていたがーまだまだ甘いね(笑)!
 更に付け加えるなら④:「時代設定は南北戦争当時」か「メキシコ革命」⑤:「主人公の行動原理は金か復讐」⑥:「リンチほかバイオレンス描写あり」。もうふたつ加えるなら⑦:「全てにおいていい加減」か「ご都合主義」(笑)。⑧:「他の作品で見た場面や設定多数」(爆笑)!


 この「さすらい〜」で見てみると①の「早撃ち」は該当!映画の冒頭、馬泥棒として町民から殺されそうになった主人公(デスペラードと呼ばれる割には小悪党:笑)が逃亡する際、銃を乱射。その早いこと、早いこと!で、全部「命中」するわけ(笑)。
 ②は「続 荒野〜」のほか、色んな作品で登場しますが(三池作品にも)今作にはなし。
 ③の「音楽」に関しては、このジャンルの教祖エンニオ・モリコーネ大先生の影響もあってか他の作曲家でもかっこいい楽曲多し!今作では「荒野の1ドル銀貨」のジェンニ・フェリオが威勢のいいテーマ曲(歌つき)を書いています。
 
 で筆者が付け加えた④:今作も例にもれず「南北戦争末期」。セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演の「続 夕陽のガンマン 地獄の決斗」では大金かけて「戦場」も再現してますが、今作ではそんな場面はない。メインとなる街の描写も「コレラで大勢の人が死んだ」という事でゴーストタウンになっているがー絶対、エキストラを雇う「予算」がなかったと観た(確信:笑)!
 ⑤は今作もあら筋に書いた通り「金」!マカロニの主人公の行動は何百本も作られた割には「金」か「復讐」しかないのよ。で、金を得て何をしたいのかはよく分からない。この辺りの脆弱さがブームの衰退を招いた原因でもあろう。

 ⑥の「バイオレンス描写」は本作にもあり(三池作品にもあると思うのだが、フジテレビで紹介しなかったのは単なるディレクターの勉強不足か、はたまた「放送コード」に引っかかるのか:笑)。奪った軍の金を持ち逃げした主人公は縛られて、一味にボコボコにされるし(=ブームの火付け役「荒野の用心棒」からのお約束)、人は非情にもガンガン殺される(笑)。本家「西部劇」が飽きられた時に、この残酷描写で人気を呼んだのだ!やはり人が観る以上、映画にエロと暴力は必須だね(笑)。

 ⑦の「ご都合主義」はあら筋読んで一目瞭然でしょう!いくら父親の目が見えないからって、声で息子かどうか分かるって(爆笑)!「いい加減」と言えば歴史考証の他、ピストルが向いてなくても相手が倒れたり、実在しない珍妙な銃器が多数登場する(笑)。これは次回の「応用編」で解説します。

 そしてラストの⑧!マカロニは物語の設定自体似てるのが山ほどあるので、何十本も観るとーどれがどれだか区別がつかなくなってくるのだが(笑:でも本当)、今作もそんな一作(笑)。主人公が縛り首になる場面は「続 夕陽のガンマン」を彷彿させるし、聖書に拳銃隠すのは「殺して祈れ」ほか多数(イタリアではパクリはOKなのかしら?)。で、ラストの主人公の逆襲もーいつもの通り(笑)。

 
 ご覧の様にマカロニウエスタンの<基本要素>即ち<セオリー>にのっとって作られている一作が「さすらいのデスペラード」なのだ^^マカロニ初心者にはうってつけの一作でしょう。
 上記の説明を読んで「なんていい加減なジャンルなんだ」と呆れた方々もいるでしょうが、こういう要素を面白がってこそマカロニウエスタンは楽しめるのであり(娯楽だし)、貴方の中の世界観が大きく広がるきっかけにもなるでしょう(本当か?:笑)。では次回<応用編>でお会いしましょう!!