其の205:元祖トラベルミステリー「オリエント急行殺人事件」

 今日、帰りの電車の中でアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」を読んでる男性(おっさん)がいた。懐かしいねぇ、筆者も学生時代に読んだ。映画もオリジナル版以外は観た(何度もリメイクされている)。横溝正史が同書を参考にして「悪魔の手毬唄」を書いたのは有名な話。
 しかし、数あるクリスティーの映画化作品で成功しているのはビリー・ワイルダーの「情婦」と、今回紹介する「オリエント急行殺人事件」、「ナイル殺人事件」ぐらいではなかろうか。特に「オリエント〜」(’74)は豪華列車による旅気分が味わえて、なおかつミステリーも楽しめる西村京太郎先生も真っ青(?)の「一粒で二度美味しい」作品だと思います(勿論書かないけどミステリーファンなら有名な犯人だよね)。


 1935年、イスタンブール。間もなくアジアとヨーロッパを結ぶ大陸横断国際列車オリエント急行がパリ経由カレーに向けて発車しようとしていた。この豪華列車に乗り込んだのは英国軍人アーバスノット大佐(ショーン・コネリー!!)以下、ハワード夫人(ローレン・バコール)、アンドレニ伯爵(マイケル・ヨーク)とその妻(ジャクリーン・ビセット)、英語教師グレタ・アルソン(イングリッド・バーグマン)ほかの面々である。こうして3日間の豪華列車の旅が始まった。
 ところが2日目の深夜、大雪のために列車は立ち往生を余儀なくされる。すると翌朝、大金持ちのアメリカ人ラチェット(リチャード・ウィドマーク)の刺殺体が発見された!そこで列車に乗り合わせていた名探偵エルキュール・ポワロ(アルバート・フィニー)が捜査を開始。被害者の室内に残されていた燃えカスの手紙には、5年前に世界中を騒がせたアメリカの大富豪アームストロング家女児誘拐殺人事件の事が記されていた・・・。さて、ポワロの推理は?!


 この小説(原題「オリエント急行の殺人」)はクリスティー自身のオリエント急行乗車体験+1932年に起こったリンドバーグ(大西洋横断したあの人よ)の息子(当時1歳8ヶ月)が誘拐されて殺された事件から発想されたもの(リンドバーグの事件を知っているインテリならすぐ分かるネタ)。映画化の話を持ち込まれた当初、本人は難色を示したが「原作に忠実に作る!」と説得され、OKを出したそうだ。


 監督は「セルピコ」のシドニー・ルメット。脚本を読んだら意外な犯人にびっくり仰天!それで監督依頼を引き受けたという。ルメットはミステリー、読んでないようだな(笑)。こうして、彼の提案でオールスターキャストによる「超豪華大型ミステリー」の製作が始まった!


 出演する俳優陣はポワロ役のアルバート・フィニー(当時、未だ30代だったが老けメイクで60前後のオヤジに見事変身)以下、先程も書いた「三つ数えろ」のローレン・バコールイングリッド・バーグマン(「カサブランカ」!)、ジャクリーン・ビセット、初代「007」ショーン・コネリー、ジョン・ギールグッド、アンソニー・パーキンス(「サイコ」よ「サイコ」)。更にヴァネッサ・レッドグレイヴマイケル・ヨークリチャード・ウィドマーク・・・とても書ききれん(苦笑)。この超豪華強力キャストを束ねたルメットは、すでに「十二人の怒れる男」を演出していたから、大勢さんが出る作品はさすがに手馴れたもの(バーグマンは今作でアカデミー助演女優賞受賞)。プロデューサーは高額なギャラで青くなっていたかも知れんけど(笑)。


 このテの作品でキャスト同様、重要になるのがタイトルロールにある「オリエント急行」本体。70年代初めには既に原作で書かれた30年代のオリエント急行はもう走っておらず、美術スタッフは丸ごと列車を<再現>!客車の内装の一部はベルギーの博物館に展示されていたものを借りて<複製>したというから凄い。ロケはヨーロッパを中心に行われたが(客室内はイギリスのスタジオでのセット撮影)、特に冒頭の「イスタンブール駅構内」はパリ市内にある列車の修理工場を借りて撮影したもの。せっかくパリにいるのにねぇ(苦笑)。でも、映画を観る分にはとても工場には見えない(=飾りつけが絶妙)。これも<映画のマジック>だ^^


 こうして演出、演技、美術ほか全ての要素が調和した結果、一度は乗りたい超メジャー高級列車「オリエント急行」の<ロマン(列車の走行シーンにワルツがかかる!)>に<殺人事件の謎説き>が加わった一級のミステリー作品が完成(オチも意外性十分)!映画はヒットし、クリスティーも出来に大満足したそうな(他の作品の映画化権も今作のプロデューサーに認めたほど)。以後、しばらくクリスティー作品はオールスターキャストで(いいか悪いかは別として)製作されるようになりました。


 ・・・で、我が国では水野晴郎大先生が今作にオマージュを捧げた(?)「シベリア超特急」を作って爆笑カルト映画シリーズを作り続けたとさ(チャンチャン♪)^^


 <どうでもいい話>先日、DVDで「ディセント」を観ました。一言でいえば「洞窟版エイリアン」。「地獄の変異」といい、最近<洞窟もの>多いね。もう怪物出す場所はネタ切れか(苦笑)。
 また映画界では「40歳の童貞男」、「童貞ペンギン」、そして「童貞。をプロデュース」と「童貞ブーム」到来。筆者は男性なので・・・あまり嬉しくない(苦笑)。