其の201:男は誇り高く生きよ「北国の帝王」

 終戦記念日の今日は反戦映画を紹介するのが普通なんでしょうが、それでは当たり前過ぎるのでラクエル・ウェルチ主演作・・・ではなくって「北国の帝王」(’73)!北国と言っても北島三郎の映画ではありません(笑)。米・大恐慌時代を舞台にハードな男たちの姿を描いた男気系作品です。


 1933年のアメリカ。この時、アメリカ全土に失業者が溢れていた。その中から鉄道を無賃乗車しては北へ南へ移動して暮らす「ホボ」と呼ばれる人々が現れた(勿論、無理して乗車するのだから常に危険が伴っている)。だがオレゴン州ヴィラメット・バレーに集うホボたちはそこを通過する「19号車」だけには決して乗らない。19号車の車掌シャック(アーネスト・ボーグナイン)はホボを忌み嫌い、彼らを見つけては徹底的に痛めつけるからである。だが「北国の帝王」と呼ばれホボのヒーローである「エース・ナンバーワン」(リー・マービン兄貴!)だけは彼の裏をかいては移動を続けていた。シャック、ナンバーワンに若きホボ・シガレット(「リドリー・スコット初監督作「デュエリスト/決闘者」のキース・キャラダイン)を加えて最後の闘いが始まろうとしていた・・・!


 1929年からアメリカを襲った経済史上空前の大不況は1933年をその頂点とした。約1500万人もの人が失業したもの凄い時代!日本のバブル崩壊どころの話ではない。そんな人々の悲惨な暮らしぶりは度々映画の舞台背景に取り上げられています。ロン・ハワード監督作「シンデレラマン」あたりを是非観てほしい(競走馬の「シービスケット」、「俺たちに明日はない」もこの時代の実話)。生きるだけで精一杯・・・それが大恐慌時代でした。


 「北国の帝王」の監督はロバート・アルドリッチ大先生。「ヴェラクルス」や「攻撃」、「特攻大作戦」ほかで知られる御大は漢(おとこ)を描かせたら天下一品(今作は女っ気ゼロ)!先生は物語の設定通りオレゴン州でロケを敢行。史実通り、当時の機関車(SLマニアにはこれも見所)や木製の橋脚をもバンバン登場させ、映像を眺めているとすっかり気分は30年代に(笑)。勿論、演出も従来通り骨太でごんす。


 タイトルロールの「北国の帝王」を演じるのは先の「特攻大作戦」でもアルドリッチ先生と組んだリー・マービン兄貴!浮浪者の英雄に扮しても、その男臭さと渋さは変わりなくフェロモンむんむん状態。で、その兄貴に対抗するのが同じく「特攻大作戦」や「ポセイドン・アドベンチャー」のアーネスト・ボーグナイン!今作でもその「目力」は健在。さすが「ワイルドバンチ」のメンバーだ(笑)。そんな二人がラストでは(観客の期待通り)走る貨物で大格闘を繰り広げてくれます。冷静に見れば無賃乗車するマービン兄貴は悪いし、雇われのボーグナインが損するわけじゃないからここまでムキになる必要はないのだが(苦笑)男のプライドをかけた闘いに目が離せない。


 そんなマービン兄貴を隙あらば追いつき追い越せ・・・と野心を燃やす若者がキース・キャラダイン。そんな彼にホボの帝王学、ひいては真の男の在り方を伝授するマービン兄貴。寡黙ながら、目的は絶対にやり遂げる不屈の漢!単なる「無賃乗車男」や「泥棒」ではありません(笑:おそらく大恐慌以前は人々から尊敬される職業や立場にいたものと推察される)。「社会派映画」でありながら「アクション映画」でもあり、かつ気高い男の在り方をレクチャーする「人生映画」・・・それが「北国の帝王」ではなかろうか。アルドリッチ万歳!!