其の202:去り行く夏の香り・・・「遠雷」

 本当は観客参加型ムービー「ロッキー・ホラー・ショー」を考えていたのですが後日にして(笑)根岸吉太郎監督初期の秀作「遠雷」(’80)を(全然違うやんけ)。季節にはそれぞれ独特の<雰囲気>や<香り>がありますが・・・今日、筆者は帰宅するとき何故か<夏の香り>を強烈に感じた!海に行ったわけでも、花火大会に行ったわけでもないのに(苦笑)。
蒸し暑いながらも不思議な高揚感があり、でも直にこの夏も終わってしまう侘しさをも感じる夏の匂いを・・・意識したのだ。映画の季節が夏であることも関係していると思うが、今作には<去り行く夏の香り>があると思う。

 
 宇都宮に住む満夫(永島敏行)は細々とトマト栽培を続けている青年。父は愛人と家を出、兄は田舎を嫌って東京に行ったため祖母と母の三人暮らしだ。そんなある日、彼はあや子(石田えり)と見合いをし、その日のうちにモーテルで関係を結ぶ。そんなある日、選挙の応援で父が突如帰宅、友人の広次(ジョニー大倉)が人妻と駆け落ちする等、少なからず満夫の生活に変化が訪れる。トマト栽培を手伝うようになったあや子は妊娠。二人は町を上げて盛大な結婚式をとり行う。するとその晩、広次が満夫の前に姿を現した。駆け落ちした女を殺したのだという・・・。


 原作は立松和平の同名小説。それを名脚本家・荒井晴彦が脚色した(原作では主人公が栽培しているのはキュウリだが「それじゃ絵にならん」との事でトマトに変更された)。あらすじでも書いた通り、結構ぐちゃぐちゃな人間関係が展開する(苦笑)。横溝正史的因習の世界とでもいうべきか。
 主人公演じる永島敏行(ハマリ役)は・・・今も昔も容姿が全く変わらない(驚)!純朴な田舎の兄ちゃんそのまんま。で、石田えりをあっさりモーテルに誘うし、トマトのビニールハウスでは青姦(爆笑)。友人が駆け落ちした人妻とはかつてデキていたという、ヤルことはしっかりヤってる御仁(笑)。

 余談ですが・・・その昔、地方出身の先輩から聞いた話だが「田舎は娯楽がないんで、みんなヤルのが早い。中学時代、体育館の裏でヤってる友人もいた」と言っていたが・・・この映画観ると妙に納得してしまう(全ての人じゃないことはわかってますので!ちなみに筆者は横浜出身なので、そんな経験は御座いません)。

 ヒロイン(?)の石田えりはガソリンスタンドで働く清楚なお姉ちゃんだが・・・永島同様、一筋縄ではいかないキャラ。モーテルに誘われて最初は抵抗するものの、結婚をちらつかされると(この時代は「負け犬女」という言葉はない)あっさり脱ぐ。で「あんたが5人目よ」とあっさりカミングアウト!(苦笑)
 石田は前年「ウルトラマン80」に出演する等、清純派で売っていたが今作で大胆なラブシーンを披露(撮影当時、まだ二十歳!でも○首が○○い・・・)、その脱ぎっぷりの良さも含めて絶賛された。


 物語の背景にあるのは「都市化への波」。主人公カップルは「取り残されつつある若き代表」として描かれている。都市化に対する反発や怒り、そして焦り。それに戸惑う、あるいは諦めつつある周囲の人々。先のエロ部分や終盤の殺人の下り(=よくいえば生々しい人間の営み)含めて、これは「社会派作品」であり「ヒューマン映画」、「青春映画」でもある。それらの要素を気負うことなく描ききった根岸吉太郎の手腕には脱帽だ(世代の近い主人公に自分を投影させたのかもしれない)。後期「にっかつロマンポルノ」で鍛えただけのことはある。


 オチは書きませんが満夫はこのひと夏を通して様々な事を経験する(=既に成人してるが)。映画が終わり、彼の今後の生活を想像してみると・・・それが<去り行く夏>と<やがて終わりのくる青春>とがリンクして、フィルムから郷愁が滲んでくるのを感じずにはいられないのだ。若人より30代以上の人々に是非観て頂きたい。自分の青春時代を・・・少し思い出すかもよ(照)。