其の200:我がヒーロー「シャーロック・ホームズの冒険」

 勝手に200回目を記念して趣味の映画を(笑)。筆者の好きなヒーローのひとりがコナン・ドイルが創作した名探偵シャーロック・ホームズ(漫画「名探偵コナン」の名はコナン・ドイルからとられたもの)。熱狂的なホームズマニアを「シャーロキアン」と呼ぶが、「お熱いのがお好き」「サンセット大通り」ほかで知られる名匠ビリー・ワイルダーも自他共に認めるシャーロキアンだった。そんな彼が自らオリジナル脚本を執筆して演出したのが「シャーロック・ホームズの冒険」!それもホームズの内面に踏み込むという野心作だ(原題は「シャーロック・ホームズの私生活」)。


 物語はワトスン医師(コリン・ブレイクリー)が亡くなって丁度50年たったイギリス。遺言によって当時封印したエピソードが相続人に開封され、何故、当時発表を控えたのかが語られてゆく・・・。 シャーロック・ホームズ(ロバート・スティーブンス)は興味がそそられる事件がなく暇を嘆いていた。そんなある夜、テムズ川に落ちて記憶を失った女性ガブリエル(ジュヌビエーブ・パージュ)がホームズの下宿に運び込まれてきた。翌日、ホームズの推理で記憶を取り戻した彼女は、行方不明になった夫を探して欲しいと依頼する。だが、この事件はホームズの兄マイクロフト(「ドゥークゥー伯爵」ことクリストファー・リー御大!)も関与する巨大な陰謀が隠されていた(最後にはネス湖ネッシーの謎も解けますぜ)・・・!


 ホームズのファンなら知っていることですがー御馴染みのいつもの帽子ーは原作の記述にはない。後年の挿絵画家が付け加えたアイテム(あの先の太いパイプも当時はまだ未発売)。また、ホームズが暇になると刺激を求めてコカイン(ちなみに「コカ・コーラ」は発売当初、コカの葉の成分を含んでいたので、その名がついた)を注射をするがー当時はまだ強壮剤、興奮剤として誰でもたやすく購入できた(その恐ろしい依存性がわかるのはもう少し後)。そういったホームズのキャラについて映画は冒頭からバシバシとユーモラスにつっこむ。「(ワトスンに)君の小説のおかげで(帽子やコートを着る)こんな格好をするハメになった」、「僕がヴァイオリンの名手?三流オーケストラでも無理だ」ほか名台詞のオンパレードでファンのつかみはOK(笑)!


 製作意図を「ホームズを深く掘り下げて、まじめに研究したかったんだ。麻薬中毒で女嫌いなのに、彼について作られたどの映画でも、なぜなのかは説明されなかった」と語るワイルダー。そこで彼の謎に迫る4つのエピソードを執筆!ハリウッドを離れ、現地イギリス&スコットランドネス湖含む)で長期ロケを敢行する。ホームズのベイカー街での下宿はスタジオで巨費を投じてファンのイメージ通りに再現、見学に来たドイルの息子も驚嘆したそうな(凄っ)。


 ところがいざ編集が終わるとなんと本編3時間25分の長尺!これはワイルダーが4つの話を「交響曲」になぞらえての<狙い>だったのだが・・・スタジオのお偉いさんは公開を渋り、泣く泣くワイルダーは2つのエピソードを丸々カット!細かなシーンもカットして2時間5分とした(DVDの「映像特典」では削除されたフィルムの一部やスチール、脚本が収録されてます)。
 ファンとしてはなんとも残念な話だが・・・それでもかの大傑作ミステリー「情婦」(原作のアガサ・クリスティーにも誉められた)を演出したワイルダーだけに数々の意匠を散りばめ、得意のユーモアも忘れずにのびのびとホームズを描いてます。ホームズはちょっと神経質そうな天才で、ワトスンはおっちょこちょいで女好き(笑:原作でホームズは生涯独身を貫いたが、ワトスンは3度結婚してる。その辺も踏まえたワイルダーの設定だろう)。数あるホームズ映画の中では最良の部類に入ると思います^^


 同様の趣向(「何故、ホームズは探偵になったのか」「何故、独身でいたのか」)で製作された映画に「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎」があるが(宿敵モリアーティ教授も登場)、もしかしたらプロデュースしたスピルバーグは今作からヒントを得たのかもしれんなぁ。なんせ自分の子供のオモチャから「トランスフォーマー」作っちゃう人だしな〜(笑:筆者は「トランスフォーマー」観ましたが・・・よくも悪くも大娯楽作でした。ロボットの変形もアクションも早すぎてよく分からない難点あり)。