其の517:ポップ&シュール!「黒蜥蜴」

 12月になってしまいました。2013年も・・・早かったなぁ(しみじみ)!

 今回は先日ようやくDVD化された大映版「黒蜥蜴(読み:くろとかげ)」を紹介!勿論、原作は江戸川乱歩の同名小説。かの三島由紀夫による舞台用脚色を元に新藤兼人が脚本を執筆。「エログロ&倒錯の乱歩ワールドがもしミュージカルになると・・・?」という“if”が実現したらこうなった^^(いいか悪いかはまた別のお話)。



 大阪のあるホテルでー。宝石商・岩瀬庄兵衛は高額なギャラを払って名探偵・明智小五郎(=大木実)をボディガードにつけていた。庄兵衛の令嬢・早苗(=叶順子)を誘拐するとの怪文書が東京の自宅に度々届いていたからだ。ホテルで明智は岩瀬親子と親しくしている緑川夫人(=京マチ子)を紹介される。そんな中「今夜12時に娘を誘拐する」との新たな警告文が届き、明智の警護もむなしく早苗は誘拐されてしまう。だが明智は騒ぐことなく誘拐犯を見破った。犯人・緑川夫人の正体・・・それは女賊・黒蜥蜴だった!黒蜥蜴には逃げられたものの、見事早苗の奪還に成功した明智。東京を舞台に<名探偵VS女盗賊団一味>の第2ラウンドが開始されたー!!


 江戸川乱歩が昭和9(1934)年に雑誌連載した同名小説を昭和36(1961)年、原作の愛読者だった三島由紀夫が脚色して(←余談だが三島は大の映画ファンで、映画評執筆のほか度々出演。なんと主演作まである)翌年、舞台化。これが話題となり、その評判を聞きつけた“ラッパ”こと永田雅一大映社長が速攻で映画化権をゲット、井上梅次に監督させた。なんと今作が公開した時は、まだ舞台上演中だったというから・・・めっちゃ早っ!!当時の映画人は怖ろしい(苦笑)。

 三島脚本も原作の「東京→大阪」という展開を逆にしたり、ちょこちょこ変更しているんだけど、なんといっても今作最大の脚色はやっぱりミュージカルテイストを加えたこと(2曲あって三島自ら作詞。音楽は黛敏郎御大)!タイトルバックからタイツ姿の京マチ子がポップかつシュールな映像美の中で鞭をふって踊りまくる(笑)!!踊りも凄いけど、歌詞もある意味凄い・・・この“味わい”は・・・21世紀の邦画にはないな〜(別の意味では三池崇史版「愛と誠」も凄かったが)。安易に人気少女漫画ばかり映画にしてる映画人はこれ観て反省するように!

 軽やかな踊り&男装まで披露する京マチ子の存在自体が今作の見所のひとつでもあるが(何故、早苗を狙ったか・・・という理由も凄い)、明智小五郎に扮した大木実のダンディさも素晴らしい。ちなみに<映画おたく>的には、大木は後に石井輝男監督作「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」(’69)でも明智を演じているーというのがポイント。監督の井上梅次といえば石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」(→これで裕次郎は大スターとしての地位を確立)と「土曜ワイド劇場」の「江戸川乱歩シリーズ」で知られる監督だが(その「乱歩シリーズ」でも「黒蜥蜴」を再度手掛けてる)、元々は「新東宝」の出身。先の石井輝男もそもそもは新東宝で名を挙げた人。「井上」、「石井」、「乱歩」に「大木実」・・・もしかすると日本のエンターテイメント界は今はなき“新東宝”という目には見えぬ巨大な宇宙世界によって形成されたのかもしれない(注:そんなことはないだろう)。

 
 短期間で作った割りには俳優もいい、最後に出てくる「黒蜥蜴一味のアジトの島」のセットといい、あらゆる意味でいまの邦画にはないテイストが満載!昔の日本映画人のレベルの高さを堪能して頂けると思う^^。冒頭に「大映版」と書いたけど、これは後に深作欣二(!)が撮った松竹版「黒蜥蜴」(’68)と区別する為。深作版も三島の戯曲をベースにしているから(故に基本的な展開や台詞が同じ)見比べるのも一興。


 
 <どうでもいい追記>忙しくてまたまたいろんな試写会に行けてない・・・(涙)。このペースだとあと1回新ネタ書いたら・・・<2013年の総括>になりそうだ。