其の195:隠された開拓の真実「ソルジャー・ブルー」

 これまでアメリカ映画は常に<敵>を求めてきた。ナチス、日本軍、ソ連、そしてイラク・・・古くはご存知イン●ィアン(放送禁止用語)となるわけだが、ぶっちゃけアメリカの開拓の歴史とは<先住民駆逐>の歴史にほかならない。要は白人が<侵略者>なわけだ。
 1970年の映画「ソルジャー・ブルー」はその真の姿を暴いた最初の映画と言っても過言ではないだろう。「西部劇」の体裁を取った<アメリカン・ニューシネマ>の問題作である。ちなみに竹宮惠子の漫画「地球へ・・・」でソルジャー・ブルーというキャラクターが登場するが(この映画のタイトルから拝借したそうな)本編には全く何の関係もない(笑)。


 映画は兵隊の給料を輸送する馬車とそれを護衛する騎兵隊(青い制服だったため「ソルジャー・ブルー」と呼ばれた)が砦を目指して旅をしている所から始まる。ところがその最中、シャイアン族に襲われ部隊はあえなく全滅。ホーナス二等兵(ピーター・ストラウス)と馬車に乗っていた女性クレスタ(「砲艦サンパブロ」、「愛の狩人」のキャンディス・バーゲン好演)はかろうじて難を逃れる。こうして若いカップルは砦を目指して反発しあいながらも行動を共にすることになったのだが・・・。


 共に旅する2人はまるで正反対なキャラクター。ホーナスは正義感で気は優しいが女々しい一面もある男。一方、クレスタはさばさばした性格で行動力があり超現実的!「気弱な男と強い女」・・・これは一昔前のラブコメ漫画と同じ図式(苦笑)。実際、ベタなお約束シーンも随所にあります(笑)。
だが、この映画が単なる「西部劇」とも「青春映画」とも大きく異なっている点は、実はクレスタが一時期シャイアン族に拉致られ、共に暮らしたことがあるーという設定にある。その為、白人より先住民の方が遥かに人間味に溢れている事を知っている(勿論、ホーナスはそんな事実を知るよしもない)。その為、2人は言い争いが絶えないのだが・・・それが最後に大爆発する!!


 今作は1864年、コロラド州サンドクリークで約700人の騎兵隊員がシャイアン族500〜600人(その大半は無抵抗な女子供だった)を虐殺した史実に基づいている(原作はオルソンの小説「太陽を討つ矢」)。今作のラスト15分はその大虐殺が延々と描かれるのだ!そのバイオレンス描写がすさまじい。すでに<マカロニウエスタン>やペキンパーの「ワイルドバンチ」が公開されていたこともあるのだろう、吹き上げる流血シーン(スローモーション!)のほか、首ちょんぱに女を全裸に剥いて犯す騎兵隊員・・・これぞ文字通りの「地獄絵図」!まるで騎兵隊員が鬼か悪魔の集団に見えてくる。いくら敵とはいえ無抵抗な相手にここまでやるか!?ホーナスやクレスタの涙の絶叫が・・・虚しく響く。


 監督はラルフ・ネルソン。63年の「野のユリ」でシドニー・ポワチエに黒人初のアカデミー主演男優賞をもたらせたのはこの方!劇中の「残酷描写」は勿論、当時行われていたベトナム戦争アメリカのTVでは米軍に撃たれたベトコンが血をびゅーびゅー流しながら死んでいく様子を放送していた)のメタファーだ。公開当時、この残酷描写が非難されたが「残酷シーンは必要だった」と反論している。そう・・・今作は白人によって都合よく解釈されてきた西部開拓史への<告発>であり、ベトナム戦争批判でもあるのだ(実際、ベトナムでも米軍はソンミ村で大虐殺を行った)。


 「汝の敵を愛せよ」などと聖書のフレーズを持ち出す気はないのだが・・・先住民、ベトナム国民、そしてイラク国民と・・・アメリカという国は憎悪を抱いた相手には必要以上に報復する傾向がある。で必ずのちに大非難されるわけだが・・・つくづく学習しない国、それがアメリカかもしれない。


 <追記>先日観たフランス製アニメ映画「ルネッサンス」(全てが白黒で描かれている)は映像技術的にはもの凄く高いんだけど、肝心のストーリーが・・・従来のハードボイルドの域を出ず、残念な出来でした。