其の183:映画ファン必見「監督・ばんざい!」

 吉永小百合の熱狂的ファンを「サユリスト」と呼ぶが、ビートたけし北野武)の熱狂的ファンを「タケシスト」あるいは「キタニスト」と言う。かくいう筆者もキタニストを自認する一人!勿論、北野映画は全てリアルタイムで劇場で観賞している(=自慢してマス)。
 その北野武監督最新作にして13作目にあたるのが「監督・ばんざい!」。「みんな〜やってるか!」(’95)以来となるコメディーであり、過去の北野映画を越える超豪華キャスト!北野作品初のナレーションつきでもある(「ヤマト」のデスラー総統こと伊武雅刀が担当)。それにしても江守徹はーよくこの仕事受けたなぁ(爆笑)!


 物語の主人公は映画監督キタノ・タケシ(ビートたけし)。都合が悪くなると人形に身を変える技を持っている(笑)。そんな彼が「得意のバイオレンス映画はもう撮らない」と宣言!その為、ヒット確実な次回作を求めて様々なジャンルの作品を撮りはじめることとなる。「ホームドラマ」に「ノスタルジー系懐古作品」、「ラブ・ストーリー」に「ホラー」、「時代劇」と全てしょーもない理由で次々と頓挫。最後にハリウッドの向こうをはって「SFスペクタクル」に取り組むのだが・・・。


 前作「TAKESHIS’」(’05)ではゴダール・テイスト(=一見、難解)で「芸能人・ビートたけし」の自己分析をやってのけたが、今度は「映画監督・北野武」を狂言回しとしてギャグを交えながら、これまたゴダールの専売特許である「映画の模倣と破壊」を目指している。でも今回のテイストはフェリーニに限りなく近い!「次回作に悩む映画監督」はまんま「81/2」だし、「劇中劇」の数々は「甘い生活」と同じく<エピソードの数珠つなぎ>だ。


 以下が「映画監督キタノ・タケシ」が手がける作品である。
まず人情劇「定年」は小津安二郎の純然たる真似。勿論、ローアングルでモノクロに加工してある。で、夫婦の会話は鸚鵡返し(笑)。小津映画のファン、ヴィム・ヴェンダースの感想を聞いてみたい!
 続くラブ・ストーリー「追憶の扉」は・・・「どの作品」というよりはーこれまでの北野テイストを踏襲した1本。男女が横に並んで座るのを正面から捉えた構図は「HANA−BI」(’98)や「TAKESHIS’」のほか、どの作品でも観られる北野映画人物配置の基本中の基本パターンだ。
 そして「コールタールの力道山」はーたけし版「昭和30年代映画」!本当はこれが長編として最新作になるはずだった。30年代をリアルに知るたけしからの「オールウェイズ 三丁目の夕日」の返歌といえよう(たけし曰く「30年代はあんなんじゃない」)。
 「蒼い鴉 忍PART2」は自身の大ヒット作「座頭市」を彷彿させるアクション時代劇。「能楽堂」はいまハリウッドでもてはやされている「Jホラー」のパロディー。勿論、全然怖くない(笑)。
 そして最後がSF映画「約束の日」。設定は「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」(但し、主人公がスペースシャトルに乗って宇宙に行ったりはしない)。何故か「マトリックス」まんまのアクションに、井手らっきょの持ちネタ「宇宙人だーっ」が登場する(笑)。・・・しかし、よくぞこれだけのジャンル映画を1本の作品に盛り込んだものだ。


 北野監督はこれまで「皆どうして同じ映画ばかり観にいくのか。自分で映画を選ぶことはないのか!?」との主旨の苦言を呈してきたが「ヒットした系統の映画ばかり作る映画会社」、「話題作にしか劇場に足を向けない観客」への疑問、苛立ち・・・が、観客の好みそうなジャンルの映画を集めて徹底的に破壊し、笑い飛ばす形となった。こんな「商業作品」を作る事が許されるのは北野武だけだろう。ギャグでコケるのは今時いかがなものかーとも思うが(笑)、やはり北野武は「天才」である。


 最後に出演された方々を列挙しておきます。勿論、皆さん「劇中劇」での登場なので、出番はそんなに多くないのでーその点はご注意(笑)。
 江守徹、岸本加世子(御馴染み)、鈴木杏吉行和子宝田明(「ゴジラ」のあの人よ)、藤田弓子内田有紀(!)、木村佳乃松坂慶子(!!)、菅田俊石橋保蝶野正洋(!)、天山広吉(!)。大杉漣寺島進も勿論出てます^^