其の380:ワクワクゾクゾク^^「アウトレイジ」

 本当は別作品を考えていたのだけれど、北野武主演・監督作「アウトレイジ」に急遽ネタ変更!筆者はガイドのDVD付き前売り券を買ったぐらいだから、かなり期待はしていたのだけれど・・・観ている間、久方ぶりにワクワクゾクゾクしたわ^^こういう事があるから映画館通いはやめられない(笑)。北野武監督15作目であり(→処女作以外、全てオリジナルで作品を発表している人が他にいるだろうか)、彼の暴力映画の集大成といっても過言ではない。

 
 巨大暴力団組織「山王会」傘下の「池元組」組長・池元(=國村隼)は、本家・若頭の加藤(=三浦友和)から「村瀬組」の組長・村瀬(=石橋蓮司)と兄弟盃を交わして懇意にしている事を咎められる。困った池元は配下の「大友組」組長・大友(=ビートたけし)に池元組にちょっかい出すように命じる。大友は部下(=椎名桔平加瀬亮ほか)を使って、うまいこと池元組をシメることに成功した。ところが組長の意に反して構成員たち(=中野英雄塚本高史ら)が報復に転じたことから池元組と大友組の<親子抗争>に発展!状況を知った「山王会」会長・関内(=北村総一朗)は一計を案じ、池元、池元組の若頭・小沢(=杉本哲太)、そして大友それぞれに甘いことを囁き、抗争は激化の一途を辿る。果たして、その結末は!?そして・・・生き残るのは誰か?

 「アウトレイジ(OUTRAGE)」とは「極悪非道」の意。北野映画の常連俳優ら(=大杉漣寺島進)を排し、北野映画初出演となる超豪華俳優陣で挑んだ意欲作だ(→あらすじでは割愛したけど、悪徳刑事役で小日向文世も。&そのテの本には何故か書いてないけど塚本高史とは「バトルロワイアル」で共演済み。映画ライターはもっと勉強せえよ。パンフにも「座頭市」以来のバイオレンス・アクションとかって書かれているけど「TAKESHI’S」のドンパチや「監督・ばんざい!」中の時代劇アクション場面はバイオレンスじゃないのかい?ホントにホントに映画ライターや宣伝会社は勉強が足りんの〜)。キャッチコピーにあるように「全員悪人」という設定だけで筆者的には★5つ満点で4つは献上(笑)。
 「ヤクザもの」は、これまでの北野作品で<よくあるパターン>だし、テンポもこれまで通り淡々としているのも同じなんだけど(定番の海もあり)、今作における殿の最大の特徴は・・・メチャメチャしゃべること(=映画での殿は「菊次郎の夏」以外は無口なキャラが多い)!正確に書くと「怒鳴る、怒鳴る」なんだけど(笑)。「みんなが怒鳴りまくるので、自分も併せて怒鳴りまくるキャラにした」そうだ。台詞に「てめぇ」、「馬鹿野郎」、「この野郎」が入るのは殿が足立区出身の「江戸っ子」だからに他ならない(関西の人はビックリしないでね)♪

 プロデューサーからの希望ではあったものの豪華キャストを集めた結果、「みんなに見せ場を作ろうと気を使ったら、自分の出番を忘れてた(笑)」と語る北野監督。だが、皆芸達者だけに撮影中から「すごくいい」と満足のコメントが製作中にも伝えられていた(→こんな発言はこれまでなかったと記憶している)。余りの撮影の速さに当初、北村総一朗加瀬亮は相当戸惑ったようだが、2人とも曲者ぶりが発揮されていて凄くいい!中でも加瀬くんや小日向さんは「いい人」役が多かったけど新境地を開いたのでは。余りに自己中な人物が多いので、ヤクザとはいえ、やばいと分かれば拳銃渡して子分を逃がす配慮もするたけしや大友に従順な椎名桔平が<いい人>に見えるほど(→若い人は知らないだろうけど、椎名くんはブレイク前に出ていた石井隆三池崇史作品ではものすごい凶悪な役も演ってた)。一番、悲惨で可哀想なのが石橋蓮司。彼は・・・酷過ぎて笑えるよ(次回作でも石橋起用を望む^^)。初日舞台挨拶で北野は俳優陣への演技指導法を聞かれ「控え室にマリファナ焚いたら、勝手にやってくれた」とブラックジョークで答えていたが、次回作からますます<演技派俳優>の起用が増えるかもしれない。
 「(同じバイオレンスでも)ゴッドファーザー仁義なき戦いのようには作れない」と語る北野武が今作で拘ったのは<殺し方>!ネタバレになるんで書きませんが・・・意表を突く凄いパターンが幾つも登場。なんでも日頃から「映画でやりたい殺し方ノート」を作っていて、思いつく度に書き留めているそうだ(笑)。今作は「暴力表現ありき」で企画され、本当に痛みを感じる暴力描写をいっぱい出すことを意識したという。「暴力を振るった者は、その見返りとして暴力を振るわれる運命にある」という北野一流の反暴力思想も素晴らしいと思う(メインキャストは勿論、末端の構成員から愛人に到るまで大勢の人間が死にます)。見方を変えれば一般企業にも当てはまるような話でもあるので(=中間管理者の悲哀がひしひし)この映画みて「ヤクザ、かっこい〜!」と憧れる青少年もいないだろう。「彼らの私生活(家で過ごす場面とか)が一切描かれていない」と文句言う人もいそうだけど、そこまでやってたら尺が長くなりすぎるからーという観客への配慮だと筆者は好意的に捉えてマス(たけしファンだし)。

 最後に。北野組は基本的に長年組んで気心の知れているメインスタッフ(=撮影、照明、美術、編集マンほか)で構成されているんだけど、衣装は「座頭市」でも組んだ巨匠クロサワの愛娘・黒澤和子(&たけしの衣装は「BROTHER」のヨウジヤマモト)、音楽はムーンライダーズ鈴木慶一!「座頭市」の彼の音楽も良かったけど、今作のテーマ曲は、最高傑作「ソナチネ」を彷彿させる不穏で、不気味で・・・登場人物たちの未来を暗示させるかのような・・・長く頭に残る素晴らしい旋律!思わずサントラ買おうかと思った(笑)。幾度となく流れてくる曲なので、映像のみならず音楽にも要注目!


 <蛇足>筆者は平日の昼間に観たのだが・・・いや〜、混んでて驚いた!北野映画は全てリアルタイムで劇場で観ているのだが、こんなに客がいたのは「座頭市」以来じゃないか(→興行成績、初登場4位だって)?おそらくカンヌで上映されたことで、日頃は映画観ないけどアカデミー獲ったやつとか、超話題作(「アバター」とか)ぐらいは<イベント>として観るっていう類の人が押し寄せたと推察する(→その証拠に「座頭市」もベネチアで監督賞貰ってる)。長く続く不景気&世界一映画料金の高い日本だけに、そういう作品のチョイスの仕方も致し方なし、か。