其の176:クローネンバーグの悪夢世界「ビデオドローム」

 「陰陽師」の夢枕獏先生原作の映画「大帝の剣」を観たのですが・・・いまいちでした(苦笑)。主演・阿部寛+監督・堤幸彦の「トリック」コンビの新作ですが、なぜ堤監督はTVドラマは素晴らしいのに映画を撮ると普通になってしまうのか(勿体ない)??
 痛快娯楽時代劇(宇宙船や液状の宇宙人まで登場。で、人間に憑依する「ボディ・スナッチャー」状態。更に「海のトリトン」で御馴染みの「オリハルコン」まで出てくる!)ながら、話のスケール小!チャンバラにおいてのケレン味もなし(アクションだけなら北村龍平監督の「あずみ」の方が遥かに上)。残念な出来でした。
 こんなんだったら、デビッド・クローネンバーグの「ビデオドローム」の方がよっぽど面白いぞ(ジャンルが全然違うやんけ:笑)!!


 暴力的かつ過激なポルノを売りにする弱小テレビ局経営者のマックス(ジェームズ・ウッズ)は、部下に命じて世界各国のTV番組を違法視聴していた。そんなある日「スナッフ・フィルム(=マジで殺人を行う地下映像)」を繰り返し放送する危ない番組を目にする。興味を持った彼は、番組の出所を探ろうとするが、次第に彼はその映像に蝕まれてゆき、現実の世界にまで影響を及ぼすようになる・・・う〜ん、俺らも気をつけないと(苦笑)。

 
 「スキャナーズ」、「デッドゾーン」、「ザ・フライ」ほかで知られるカナダのホラー作家(本人は認めてないけど)デビッド・クローネンバーグ監督による「ビデオドローム」。かつて科学者を目指したこともあるインテリの彼が(ポルノ映画制作会社にいたこともあり)終生のテーマ<機械と人間の融合>が出てくる初期の作品でもある(後の「クラッシュ」も同じテーマ。車で事故って快感を得、セックスする変態男女が登場する:笑)。今作では腕と銃が一緒になったり、エロとグロが入り乱れて凄いことになっちゃってます(苦笑:特殊メイクはリック・ベイカーが担当。音楽はハワード・ショア)。

 
 この映画は「難解作」としても知られていますが(映像展開と台詞のつじつまがいくつかあってない。故にカルト)。それもその筈、実はこの映画、制作スケジュールの都合で「見切り発車」してバタバタと撮影に入ったから!!だが当の本人は「曖昧さや不明瞭は気にしない」とのこと(笑)。
 だが彼が今作でやりたかった内容ー「映像が人間に与える影響について」はしっかり描かれていると思う。毎日毎日、殺人やセックス、レイプの映像(それも真実と思しきもの)を見続ければ「洗脳される(=現実と虚構の区別が分からなくなる)」人も中には出てくるだろう。日本人的にはMくんの事件が直ぐに想起される。いまなら「ビデオ」よりはインターネット画像や映像といったところでしょうか。
 <新しいメディア>というものは言わば「両刃の刃」。キチンとした常識ある人間が使えば「正しく使用」されて「便利」なのだが、そうではない人間が使うと「問題」が起こったり「悪用」されたりする。で、そういったものが流行るときは必ずエロが介在する(「映画」のブルー・フィルムしかり:笑)。


 あまりゲロゲロ描写を詳しく書くのは「観る楽しみ」が減ると思うのでやめますが(笑)「機械と人間の融合」、「現実と虚構」というビデオドローム的世界をクローネンバーグは後年ジュード・ロウ主演の「イグジステンズ」でセルフ・リメイクしています(さすがにもう「ビデオ映像」ではなくて、RPGの「ゲーム」に改変)。で、オチもほぼ同じ(苦笑)。まぁ、これがきっと「作家性」といわれるものなんでしょうねぇ(好意的解釈)・・・。


 最後にクローネンバーグ御大のありがたいコメントを紹介(笑)。
 「私の映画はどんなジャンルにも属していない。それだけでひとつのジャンルなのだ。」