其の232:日米新作ミステリー映画評

 たまたま今週、日米のミステリー・サスペンス映画を立て続けに観ました。両者とも金のかかった大作ではないし、上映している映画館も少ないんだけれど(苦笑)それぞれ味があって面白かった^^そこで、今回は「日米新作ミステリー映画」としてグラインド方式2本立てでお送りします!


 まずはウディ・アレン監督、脚本、出演の「タロットカード殺人事件」(アメリカ映画だけど舞台はロンドン)。夏休みを利用してイギリスに来たジャーナリスト志望のアメリカ人女子大生サンドラ(スカーレット・ヨハンソン)が三流マジシャン、スプレンディーニ(=アレン)の舞台に上がったところ、先日急死した敏腕新聞記者の幽霊と遭遇!彼からいまロンドンを震撼させている連続殺人犯(=被害者は娼婦ばかりで現場にタロットカードを必ず置く)が判明したので、死んだ自分の代わりに調べてほしいと頼まれる。その犯人とは有名貴族の息子ピーター(ヒュー・ジャックマン)。サンドラはこの特ダネをモノにすれば将来が開けるとばかり、スプレンディーニを誘ってピーターの正体を探るべく彼に近づくのだが・・・。

 
 今作はニューヨーカー・アレンが前作「マッチポイント」に続いて、ロンドンを舞台&スカーレット・ヨハンソンをヒロインに迎えた第2弾(=彼女をイメージして台本当て書き)。余程ロンドンとヨハンソンが気に入ったようだ(笑)。内容は「素人探偵が犯人を探る」いわばアレン版ジョーク満載の「土曜ワイド劇場」。あるいは赤川次郎的ユーモア・ミステリーといったところ。原題が「スクープ」なので、邦題は一見アガサ・クリスティー(=イギリス人)の映画タイトルを彷彿させますが、そこまでマジなミステリーではないのでご注意^^

 
 「マッチポイント」やブライアン・デ・パルマ監督作「ブラック・ダリア」ではシリアスな演技を披露したヨハンソンが今作では一転、おきゃんな女子大生役を熱演。いつもよりセクシーさは抑え目ながら、すぐ男にヤラせるのはいつもと同じ(笑:赤い水着もエロい)。アレン作品初登場のヒュー・ジャックマンも明朗快活な青年貴族を楽しそうに演じています(メグ・ライアン共演の「ニューヨークの恋人」で既に貴族役は経験済みだし)。で、久々に自作に出演するアレンは・・・いつものアレン。おどおどしながらもジョークをしゃべりまくり、場所をわきまえずチンケな手品を披露する(爆笑)。


 先程「土曜ワイド劇場」と書きましたがー案の定、ヨハンソンはジャックマンと恋に落ち、アレンは彼女の身を心配しつつ捜査を続ける・・・というベタベタな展開(笑)。その為、後半からは「本当に犯人はピーターなのか?」が物語の核になる。アレン自身は「50〜60年代のアレック・ギネスピーター・セラーズ主演のイギリス・コメディを念頭に置いて脚本を書いた」と述べているが(言うまでもなく事件のベースは「切り裂きジャック」だ)、<ジャックマンの描き方>はヒッチコックの「断崖」のケーリー・グラントを筆者に思い起こさせた。アレンの「××シーン(=ネタバレ防止)」は・・・エド・ウッドの「プラン9・フロム・アウタースペース」のベラ・ルゴシがヒントになってるんじゃねーだろうな(そんなわけない:笑)。でも時々出てくる「死神」は絶対、イングマール・ベルイマンの「第七の封印」(’57)が元ネタ!これは断言しよう(笑)。


 定番中の定番「崖での犯人の告白シーン」はないし(笑)、作品全体の出来は前作「マッチポイント」には少々及ばないものの、オチのつけ方はいかにもアレン(台詞も相変わらずウイットに富んでいる。こういう台詞回しの妙は邦画も真似して欲しいね)!全編アレン印の金太郎飴サスペンス・コメディーとして楽しめる映画で御座いました(岸朝子的言い回し)^^



 さて、邦画からは豊川悦司主演「犯人に告ぐ」。これは「タロットカード〜」と異なり、どシリアスよん^^お話はかつて児童誘拐事件を解決出来ず左遷された神奈川県警のトヨエツが、今度は川崎で起こった児童連続殺人事件を解決すべくかつての上司に呼び戻され、過去のトラウマを払拭すべく奮闘するサスペンス。「BADMAN」(=元ネタは明らかに「バットマン」)を名乗る犯人逮捕のため警察官がTV出演し、相手を挑発する展開が新機軸(ちょっとメル・ギブソン主演の「身代金」に似てるけど)。


 原作はエリカ様が不機嫌になった「クローズド・ノート」(笑)の作者、雫井脩介の同名小説。2004年に「このミステリーがすごい!」系企画で何誌も第1位に選んだ傑作(先に「身代金」の事を書いたが、作者は筆者と同世代なので「身代金」観てヒントにした可能性は高いとみた)。その原作に惚れ込んだ監督・瀧本智行が今時の映像技法に頼らず正攻法ながらノリノリで映像化(この点は「タロット〜」も同じ)。「映像」というものは不思議なもので・・・ノッて作ると、何故か映像にも出るんだよね〜(勿論、ノラないとそれなりになる)。長編小説を2時間程度にまとめる分、相当はしょっている筈だが(筆者未読)映画としては過不足なし。これは脚色した福田靖(キムタクの「HERO」もこの人)の巧さだろう。


 映画屋さんやTVでもドラマオンリーの人が「TV局のシーン」を描くと「これ違う!」という部分が多かれ少なかれあるんだけど、雫井はポイントになる「報道番組の描写」にあたっては、某民放局の某男性有名キャスターに「取材」したそうで(=あえて伏せます)、そのぶん一時期「報道番組」担当していた筆者が観ても特に違和感はなかった。ただ、タイムキーパーの「本番10秒前」のカウントは・・・ちょっと変だったけどさ(苦笑)。


 内容もシリアスだが、俳優陣も渋い人ばかり!ここ最近、出まくってるトヨエツ(苦笑)を筆頭に石橋凌小澤征悦笹野高史片岡礼子松田美由紀井川遥に加え映画監督の崔洋一まで出演。ど下手な人が出てない分、安心して観ていられます^^保身ばかり考えてる上司(=石橋)や三十路過ぎて焦る女子アナ(=片岡)、警察のお偉いさんの息子で巨乳好きのボンボン(=小澤)とちょっとステレオタイプのキャラクターが多いのが惜しまれる点。トヨエツが出演する報道番組のプロデューサーは最初は視聴率が上がって喜ぶものの、非難が集まると彼を即行で「降板」させるヘタレぶりには笑ったが。


 でも主役の人間くさいトヨエツはいいぞ〜!以前は家庭を顧みない「出世第一主義」だったものの、左遷を機に「純粋に犯人を挙げるために奔走する熱血漢」に。で物語の後半、ようやく犯人の尻尾を掴むと自らTV出演を売り込み、カメラ目線で犯人に語りかける。「犯人に告ぐ!(中略)今夜は・・・震えて眠れ。」うお〜っ、カ〜ッコイイ!!で、うまい具合にこの番組観ていた犯人がマジでビビると(笑)。そんなにすぐ出演決まって「ラ・テ欄」は間に合ったのか(笑)?


 作風は両極端ながら、どちらもミステリー・サスペンス映画の秀作。「ミステリーファン」の筆者の好みで言うと警察機構やマスコミ批判も描いた「犯人に告ぐ」の方が良かったけど、「タロット〜」のユーモアも捨てがたい。「ジャンル」や「低予算」のほか、「脚本の良さ」も両作の共通項!やっぱり脚本が良くないと面白い映画にはならない事を再認識しましたわ^^