其の170:オランダ版ある女の半生「ブラックブック」

 「氷の微笑」、「ロボコップ」ほかで知られる<バイオレンスとエログロの鬼才>ポール・バーホーベン大先生が故郷オランダで「インビジブル」以来となる新作「ブラックブック」を発表!やっとひと仕事終えたのでリフレッシュを兼ねて観にいきました。先生、相変わらずやってくれます(笑)。


 物語は1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。ユダヤ人の女性歌手ラヘル(カリス・フォン・ハウテン熱演!)は何者かの裏切りによって目の前でナチに家族を皆殺しにされる。唯一逃げ延びた彼女は名前をエリスと変えレジスタンス組織に身を投じるようになる。しばらくして、リーダーから彼女に依頼された任務はドイツ人将校と<関係>を結び、その情報を流す事だったー。


 本作は実在した機密情報ノート「ブラックブック」から着想を得たもの(といっても、そんなにメインの扱いじゃないんだけどね)。上記のように前半部分の粗筋を書くと<敵と関係を結ぶ女スパイ>という設定は、かのヒッチコックのサスペンス映画「汚名」を彷彿とさせる。だが、「汚名」と異なる点はヒロインが相手のナチ将校を愛してしまう事!おそらくまんまやるとヒッチの真似になってしまう事を恐れた先生のアイデアだろう(脚本も兼任)。でもって彼がやると「ナチもの」も通常の展開の作品になるわけが・・・ない(笑)。「ナチ=悪:レジスタンス=善」と紋切り型のパターンを取らず、裏切りが裏切りを呼ぶサスペンスフルな物語は観客にいい意味での緊張感(「こいつ、本当は悪い奴ちゃうんか?」という疑念)を与え続け、約2時間半ある長尺を一気に見せきります(流石)。


 バーホーベンは<数奇な運命のヒロイン>という「女性映画」の鉄板要素に加えて、お約束のエロとバイオレンスも惜しげもなく投入!ナチとレジスタンスの銃撃戦は血がドバドバ出るハードさだし、出てくる女はみんな乳を御開帳。中でもヒロインは髪をブロンドに染めると共にご丁寧に下の毛まで染めて「しみる!しみる!」と騒ぐ始末(笑)。バーホーベン映画の女性は皆逞しいが・・・この場面はちょいと笑った^^


 「ハリウッド時代はスタジオの奴隷だった」と回想する先生だが、資金集めには苦慮したそうだ。製作費25億円というのはハリウッドなら大した金額ではないが、母国でだけでは集めきれず結果オランダ、ドイツ、イギリス、ベルギーとの合作となる。だがその分、「制作に対する自由度」は大幅アップ!そうでなければヒロインにゲロ吐かせたり(韓国映画か)、○○○を頭からかける演出は・・・まず却下されたであろう(苦笑)。ヒロインの頑張りには頭が下がりました。オランダ映画祭で主演女優賞に輝いたのも納得、です。


 「バーホーベン、ここにあり!」を強く印象付けた新作「ブラックブック」。「バーホーベンにしちゃ地味」とか「ヒロインの心理描写が浅い」、「なんとなく顔で悪人か否かわかる」という欠点もあるものの(笑)これは面白い映画だ。同じ「ナチもの映画」ースピルバーグの「シンドラーのリスト」やロマン・ポランスキーの「戦場のピアニスト」もいい映画だが(両作とも実話)、エンターテインメント性だけでいえばバーホーベンの方が上(俺的には)。
 上映館数の少ないのが少々気になるが・・・是非、観て貰いたい1本(ラストの余韻も秀逸)。


 P・S 今月下旬には「ロッキー・ザ・ファイナル」が公開され、6月にはデビッド・フィンチャーの新作も!今年も映画だけなら楽しい1年になりそうだ^^