其の169:性と死と「ゴッドandモンスター」

 当初は久々に「バカ映画」でも書こうかと思ったんだけど・・・「キング・コング」をパクった「北京原人の逆襲」とかマチルダ・メイがひたすら全裸の「スペースバンパイア」とか(笑)。で、そのあと「カルト映画」も考えたけど(ピーター・フォンダの「悪魔の追跡」とか)やめまして(笑)「ゴッドandモンスター」を!余り知られていませんが、アメリカでは数々の賞を受賞している隠れた名作&伝記です。


 主人公はジェームズ・ホエール(1896〜1957)。名作「フランケンシュタイン」(’31)、「透明人間」(’33)で知られる<伝説の>映画監督です。一時は業界のトップに君臨するものの1941年、「同性愛」志向が原因で映画界から引退。1957年5月29日、自宅プールにて溺死体で発見されました。その最晩年を描いたのがこの作品!で、その彼を演じるのが「X−MEN」や「ロード・オブ・ザ・リング」、「ダ・ヴィンチ・コード」のイアン・マッケラン(彼は自身が「ゲイ」である事をカミングアウトしている)!!全然シャレじゃない(笑)。


 「映画」ではホエールが貧しい少年時代や「第1次世界大戦」に従軍した時のつらい過去のフラッシュ・バックに悩まされ、やがて庭師として雇った青年(「ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザー)に「正気でいられる内に殺してほしい」と望むようになる。でも、決して「愛ルケ」のようにはならないのでご安心を(笑)。
 実力派俳優マッケランは“超リアル”に同性愛者ホエールを熱演(苦笑)。加えてやがて“いい意味で”心の交流を持つフレイザーがこの役にピッタリ(=でもノンケ)!最初は身体ばかりで頭カラッポの肉体労働者にしかみえないが(すまん)、やがてホエールの<心の中のフランケンシュタイン(=無垢なる魂の救済者)>と同化した存在となっていく。彼のこれまでの作品の中でもベストの演技ではなかろうか。

 
 監督・脚本は「キャンディマン2」のビル・コンドン。制作総指揮は「ヘルレイザー」のクライヴ・バーカー!「現代のホラー・クリエイター」たちが、かつての「恐怖映画の王」を題材にした図式。彼らがどこまでホエールについてリサーチしたかは分かりませんが、「戦争での恐怖体験」が「フランケンシュタイン」ほかホエールの<恐怖映画の根源>にあると捉え(実際の映画のフッテージも使用)、彼の孤独な内面を掘り下げて描くことで良作に仕上げている。


 また当時のハリウッドの内幕もさらりと言及。「編集権がスタジオ側にあったから酷い作品にされた」とか、ジョージ・キューカーは「隠れゲイ」だとか(笑)。エリザベス・テーラーや「フランケン」を演じた晩年のボリス・カーロフとかも実名で登場(勿論、本人じゃない)。「伝記映画」に加え「実録もの」の香りも。
 近年、また新たなタイプの「恐怖映画」、「ホラー映画」が次々と製作されていますが(もうやめてほしいリメイクや「ビギニング」系もあるけど)、そのルーツとなったジェームズ・ホエールに再び脚光が当たる日もそう遠くはないのではないか。


 <蛇足のトリビア①> そもそも「フランケンシュタイン」とは怪物を作った博士の名前であって、怪物に「名前はない」。そこのところが初めて描かれたのがケネス・ブラナー監督、主演の「フランケンシュタイン」。怪物にはロバート・デ・ニーロが全身メイクで演じた。    
 <蛇足のトリビア②> ある意味、映画のホエールと庭師の青年は最後には「純愛」で結ばれていたのかもしれない。そもそも古代ギリシャでは精神的な恋愛は「知的な男性同士」がするもので、あくまでセックスは「子孫を残す為にする女性との行為」と区別されていたそうな。そう考えると「衆道」もありなのかもしれない。・・・まぁ、筆者には全く興味ありませんが(笑)。