其の165:体制や戦争を笑いとばそう「MASH マッシュ」

 反権威・反体制で知られ、先日惜しまれつつ亡くなった名匠ロバート・アルトマン。そのアルトマンが世界的に注目を浴びるきっかけになったのが本作「MASH マッシュ」である。このブラック・コメディには賛否両論あろうが筆者は断固支持する!!カンヌ映画祭グランプリ受賞、アカデミー賞最優秀脚色賞受賞。


 朝鮮戦争下の米軍移動外科病院(=「マッシュ」)に配属された軍医ホークアイドナルド・サザーランド)、デューク(トム・スケリット)にトラッパー(エリオット・グールド)。この3人が負傷兵の手術をこなしつつ、悪ふざけをするエピソードの数々がフェリーニ映画の如く数珠つなぎに展開していく。


 保守的だった60年代後半のハリウッドにおいて、朝鮮戦争に従軍した軍医が執筆したこの同名原作の映画化は本の出来とは別に「とんでもない企画」にうつったようだ。そこで監督に抜擢されたアルトマン(TVドラマ出身)とプロデューサーはスタジオ上層部の監視から逃れるため、アメリカ国内の山あいにMASH(「病院」といっても、いくつかのテントが集まった村状態)を建設し、そこをメインに撮影を始める(「イージー・ライダー」や「俺たちに明日はない」も然り。上の目から逃れるには地方ロケに限る)。キャストもテントで生活させたので、毎晩修学旅行気分で大いに盛り上がったらしい(笑)。


 アルトマンは今作で様々なアイデアをぶちこんだ。そのひとつがベトナム戦争真っ只中であったため「朝鮮戦争時代でありながら、観客にベトナム戦争を想起させる」よう演出。史実通り日本のラジオの曲が流れたりはするものの映画を観ているとー彼の狙い通り段々、ベトナム戦争と混合してくるから不思議(日本に行くエピソードもあるけれど)!
 余談だが、韓流映画「ブラザーフッド」は朝鮮戦争を描いた力作だったがほとんど米軍が出てこなかったなぁ(笑)。
 
 更にアルトマンは「脚本」を一切無視!キャスト(低予算だったこともあり、ほとんどが無名か新人)のアドリブを大いに奨励する。そこで数多くの登場人物が皆口々に色んな事を同時に話しはじめ<ドキュメント感>を醸し出す事となった。・・・もっとも、後に映画を見た脚本家はあまりの改変ぶりに憤慨したそうだ(笑:でも、おかげでオスカーに輝いた)。
 だが、余りにも「演出方法」が奇抜過ぎたためー当初は誰ひとりアルトマンが何をしたいのかが一切分からず、大いに戸惑った。今でこそ人気TVシリーズ「24」のジャック・バウアーことキーファー・サザーランドの父親でも知られるドナルドも自分のエージェントに「監督を変えないとやばい」と告げ口したそうだ!もっとも後に監督が「戦争の狂気」をコメディ仕立てで描くことをようやく理解したので、最終的には予定よりも早く撮影を終わらせる事となった。


 「戦争の愚かさ」を描いた映画には今作の少し前にもフィリップ・ド・ブロカ監督による「まぼろしの市街戦」(こちらは第一次大戦下の「精神病院」が舞台)があったが、「マッシュ」はこれの<アメリカ版>といった趣。主人公たちは医者としての腕はいいものの「ゴルフ」や「賭けトランプ」に興じたり、看護婦のシャワーを覗いたりと、もうヤンキー気質丸出しでやりたい放題(ちと子供っぽい)。最後は軍の組織同士による「賭けフットボール試合」!これぞアルトマンの批判精神の面目躍如。


 敗戦国である日本ではまず作られない類の映画「MASH マッシュ」。アメリカに習え右してドンドン再び右傾化する方向にありますが・・・戦争や軍隊を笑いとばして批判する作品を作る日本の映画人がそろそろ出てきてもいいのではないかい??