其の411:ヒロイン映画の快作「ジョアンナ」

 ディープな「映画マニア」ならお分かりだろうが・・・長い間“伝説”や“逸話”のみが語り継がれ、未だに観られないままの作品が多々あるのが21世紀になっても変わらず存在している。
 筆者にとってイギリス映画「ジョアンナ」(’68)もそんな中の1本だったのだが(→93年のリバイバル時は忙しくて見逃した)先日、ようやくDVD化(喜)!!いまから20年ぐらい前、今作の話を本で読んでから観たくて仕方がなかったんだよね〜。で、少ししてから発売されたサントラも買ったし。いや〜、とにかくめでたい、めでたい^^!!たしかオメガトライブ時代の杉山清貴のアルバムに「ジョアンナ」という曲があったと思うが・・・全く関係ないと思う(笑)。

 
 美術学校に通うため19歳のジョアンナ(=ジュヌヴィエーヴ・ウエイト)は、田舎から単身叔母を頼って大都会ロンドンへとやってきた。新生活をスタートさせた彼女は、スポーツカーに乗る中年男性や絵画教師で画家を目指すキャス他と次々と交際。ひょんなことから男の家を泊り歩いている黒人娘べリルと知り合ったジョアンナは、彼女と行動を共にするようになり、ベリルの兄ゴードン(=カルヴィン・ロックハート)と知り合う。パーティーの席で出会った大金持ちのピーター(=ドナルド・サザーランド!)に誘われ、モロッコの別荘に出かけたりと青春を満喫するジョアンナ。ロンドンに戻ったジョアンナは、やがてゴードンと交際を始めるが・・・。

 
 脚本・監督はマイケル・サーン(’39年:ロンドン生)。17歳でウィーンの演劇学校に入り、19歳でロンドン大学に入学。史劇「ソドムとゴモラ」(’61)、傑作アクション大作「ナバロンの要塞」(’61)他に端役で出演したのち、「廃墟の欲望」(’64)では主演を務める。また俳優業の傍ら、作詞・作曲・歌手としても活躍。在学中「Come Outside」を歌って全英ヒットチャート1位に輝いた。66年に初監督した短編が大手スタジオの目にとまり、長編第1作として発表されたのが、今作の「ジョアンナ」。時にマイケル・サーン、弱冠27歳!!才能にあふれた“真の天才”としか言いようがない。今作でも挿入歌を1曲、自ら歌ってマス^^。

 お話自体は、今現在もよくある<地方出の女の子が進学を機に上京して、都会&男に感化され、次第に堕落していく>パターンなんだけど(地方出身者の方、すみません。悪意はありません)、それをあくまで軽やか&ポップに描いているのが素晴らしい。日本に置き換えたら、じめじめした展開にしかならないと思うんだけど、それをカラッと描いているからヒロインが全く暗く見えないんだよね。この辺りは・・・国民性の違いか?

 DVDで初めて観て驚かされたのは、その“編集技法”。オープニング、ロンドン市内の駅の様子が青味がかったニュースフィルムのようにつながれ、ヒロインが電車からホームに降り立つと(→服の背中に「ジョアンナ」と書かれてる)画面が途端にオールカラー化!でもって、メインタイトルが2度3度、赤く点灯する!冒頭から「ミュージカル」のパロディ(笑)。作品自体がセミ・ミュージカル風であることを開巻から表現したわけだが・・・こんな出だしは初めて観た。
 でも、いまの<わかりやすい&説明過多の映画>に慣れ親しんだ観客は観ていて少々とまどうかもしれない。後期のフェリーニ映画程じゃないけれどエピソードの数珠つなぎで、説明的な部分がほぼ皆無だし(いきなり他の男と交際してたり、ロンドンから唐突にモロッコ行ったり)、現実のシーンに<ヒロインの夢>や<想像シーン>がインサートないしカットバックされるわ、台詞内容に合わせて画面が白黒反転したり(「電波少年」か)・・・個人的には「金田一耕助」シリーズの市川監督以来の衝撃だわ。

 中でもラストは・・・いきなり最後の展開観せる前にクレーン乗ってるカメラマンとサーンが登場、クランクアップのヒロイン&スタッフの抱擁が入ってくる!!エンドロールとかに入るなら分かるけど・・・いきなり“メイキング映像”出したあと、展開するクライマックスって・・・。発想が凄すぎ!40年以上も前にこんな大胆なことやってた人がいたんだね。今見ても斬新だからーリアルタイムで観た人の衝撃はさぞ凄かったことでしょう(羨ましい)。でも、これ・・・番組のVTRで真似して編集したら、絶対直し食らうな(笑)。

 斬新な編集&映像美(ピンクを基調にした配色&ポップ・アート調のビジュアル)は勿論、映画の主演は今作限りのジュヌヴィエーヴ・ウエイト(→後年、「ママス&パパス」のジョン・フィリップスとご結婚)演じるヒロインのキュートな魅力(服装もめちゃオシャレ)といい、「マッシュ」でブレイク前のドナルド・サザーランドの起用といい、ムーディな音楽の使い方といい(→担当は当時欧米で絶大な人気を誇ったロッド・マッキューン。サーンの依頼で、撮影された映像の尺にあわせて超短期間で作曲したそうな)・・・実験映画の手法がギリギリ商業映画に許される線で融合しており、全てにわたってサーンの才気が見て取れた。

 
 当然、今作は大成功をおさめたわけだが・・・ぶっちゃけ、マイケル・サーンっていう監督(イギリスでは先述した曲のヒットで未だに歌手のイメージが強いらしいが)、聞いたことない人が大半でしょ?それもその筈、このあとサーンには思いもよらぬ運命が待ち受けていたのである・・・(この項、続く。いきなり気が変わって伊藤俊也監督の「犬神の悪霊」書いたりはしないと・・・思う^^)。


 
 <追記>キャンディーズのスーちゃんこと田中好子さん死去(享年55)。大変びっくりしました。またひとつ、昭和が遠くなったなぁ・・・。心よりご冥福をお祈り致します。