其の166:スコセッシの「カジノ」を観よ!!

 先日、「ディパーテッド」によるオスカー受賞で、ようやく“無冠の帝王”の名を返上したマーティン・スコセッシ。おそらくギャング映画を演出させたら世界一の人だろう(「ディパーテッド」もギャング映画だ)。ギャングのルーツを描いた「ギャング・オブ・ニューヨーク」も彼の監督作である。但し、あくまで「ディパーテッド」は香港映画「インファナル・アフェア」のリメイクを依頼されて受けた「雇われ仕事」であって、彼が本気を出したらあの程度の出来ではない!!このブログで既に「グッドフェローズ」は紹介済みなので、今回は「カジノ」を取り上げる事とする。傑出した監督は何本もの名作・傑作を作るのだ!!


 1970年代から80年代初頭のラスベガスを舞台に、カジノ経営を任されたギャング(ロバート・デ・ニーロ)とその妻(シャロン・ストーン!)、彼の用心棒(ジョー・ペシ)の3人を中心に、ギャング世界とカジノの裏側を愛憎劇を交えて描いている。


 ある意味、この「カジノ」という作品は<グッドフェローズの発展系>あるいは<同一線上にある作品>と言って差し支えないだろう。その証拠にスタッフ、キャスト、演出に幾つかの<共通点>が挙げられる。まず原作は「グッド〜」のニコラス・ビレッジ。80年代前半に実際に起こった「カジノ関係者爆破事件」を基にスコセッシと共同脚本を担当(ビレッジは原作と脚本を同時並行で執筆した)。
 またキャストもほとんど「グッド〜」と同じ面々。盟友デ・ニーロは静かな中にも凄みのある演技を見せているし、「ホーム・アローン」や「リーサル・ウェポン」シリーズで御馴染みのジョー・ペシもすぐにキレて人殺すのは「グッドフェローズ」と全く同じ(笑)。で、いつも通り「暴力シーン」は写実的でエグい(苦笑)!
意外なところではシャロン・ストーンが今作で美貌に恵まれながらも精神的に脆い女性を演じてゴールデン・グローブ主演女優賞に輝いている(先日「氷の微笑2」でラジー賞も受賞:苦笑)。


 デ・ニーロとペシふたりの<モノローグ>をベースにエピソードをつなぎ、ありとあらゆるアングルで撮影されたカットを細かく畳み掛ける編集も「グッド〜」と同じ手法(当時の音楽の使い方もまた然り)。勿論、それだけだと演出もキャストもなにも変わらないので(苦笑)、スコセッシは冒頭にデ・ニーロの乗った車が爆破されるサプライズを用意!「なぜ、彼はこんなメにあったのか?」との謎を観客に与え、以後ストーリーは<回想>として語られる(スタンリー・キューブリックが「ロリータ」で使った方法)。


 キャストはいつもながらの豪華メンバーながら(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」でデ・ニーロの仲間役だったジェームズ・ウッズも出てるよ)、今作のスタッフは超一流揃い!先述した爆破シーンに続く<オープニング・タイトル>はヒッチコック作品で知られるソール・バスの手によるもの。
<撮影監督>にはオリバー・ストーンの諸作を担当した天才ロバート・リチャードソン。その腕前をタランティーノに買われて「キル・ビル」も撮影してます。
美術監督>にはフェリーニパゾリーニ作品に関わったダンテ・フェレッティ(「ギャング・オブ・ニューヨーク」で黎明期のニューヨークを完璧に再現したのが彼)!70年代の面影を残したラスベガスに現存する「リビエラ・ホテル」を使用し、完璧なロケセットを作り上げた。カジノの内装の豪華さは一見に値する!


 ・・・というわけで、スコセッシが一流のスタッフ、キャストを起用して作り上げた超大作が「カジノ」である。約3時間にも及ぶ長尺だが一気に見せきってしまうところが凄い!本当は「ギャング・オブ・ニューヨーク」を<スコセッシの集大成>と形容したいところだが・・・ちょっとあのオチは・・・なぁ(苦笑)。これからもスコセッシには「ギャング映画」を監督し続けてほしいと筆者は希望するものであります。

 「余談」ですがー筆者は彼のいまのところの最高傑作を「タクシードライバー」だと信じて疑いませんが、「レイジング・ブル」を最高作に挙げる人がいるのも事実!「レイジング〜」もいずれ取り上げます。にしても「レイジング〜」も基はデ・ニーロが発案者。「ディパーテッド」といい、人の「企画」で評価されてしまう事実をスコセッシはどう思っているのだろうか??