其の164:のほほん西部劇「ケーブル・ホーグのバラード」

 小池一夫萌えが終わったので、心穏やかな作品を紹介しようかなと(笑)。今回はサム・ペキンパー監督・制作による「砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード」を取り上げます。かの大傑作「ワイルドバンチ」に続いてペキンパーが発表したのが非バイオレンス西部劇である今作。これを彼のベストに推すファンも多く、ペキンパーご本人もお気に入りの1本です。


 20世紀初頭(=開拓時代末期)、仲間に裏切られ砂漠に捨てられた中年男ケーブル・ホーグ(ジェイソン・ロバーズ)。砂漠のど真ん中でありながら偶然「水」を発見した彼は早速その土地を購入。えせ牧師(デイビッド・ワーナー)と共に旅人に水を売って金を稼ぐ一方、気のよい娼婦ヒルディー(ステラ・スティーブンス)とねんごろになり気ままな生活を送りながら復讐の機会を待ち続けるのだが・・・。


 上記のあらすじに「復讐」と書きましたが、作品は非常に牧歌的なテイスト。セルジオ・レオーネセルジオ・コルブッチを代表とする「マカロニ・ウエスタン」のようなギラギラさは皆無!ペキンパー作品には珍しいユーモラスなシーンも多いのどかな作品である。またペキンパー十八番の映像テクニック「スローモーション」を今作では封印!その代わりに「分割画面」や「二重合成」、「早回し」に大胆な場面の「省略法(台詞は続いてるのに場面が飛ぶ)」等を用いて緩急をつけている。「俺はバイオレンスだけじゃなく、こういった作品も作れるんだぜ!」と御大が吠えたかどうかは知らないが、彼の才気と意気込みをビンビンに感じさせてくれる。


 主役にはレオーネの「ウエスタン」でもいい味出してたジェイソン・ロバーズ。無学で時代にとり残される西部男を好演(室田日出男似)!前作「ワイルドバンチ」でも描かれたテーマ「消失する大フロンティアとその男たち」をよりリアルに体現。
 相手役には後に出演した「ポセイドン・アドベンチャー」でも娼婦役だった(笑)ステラ・スティーブンス。一時期ハリウッドで数多く輩出されたマリリン・モンローの二番煎じとしてデビュー、「陽気なグラマー」という役柄が多かったが、今作ではその俳優人生においてベストの演技を披露している。主人公が彼女と初めて出会う場面では、歩いてゆく彼女の映像に「主人公の見た目の映像」=「彼女の胸元(巨乳)」が何度もインサートされる(笑)。ペキンパーは・・・かなり楽しんで編集したであろう(笑)。


 作品のテイストに反して、肝心の砂漠でのロケ(ネバダ州にある、通称「火の谷」と呼ばれる地域)は悪天候続き。で、おまけにいつものペキンパーの悪癖が出て、何人ものスタッフが現場でクビになったそうだ(笑)。だが、撮影された「映像」は大変素晴らしい!名手ルシエン・バラードが撮影した「砂漠」は荒涼としながらも雄大で、大変すがすがしい印象。この映画は風景を眺めているだけでもいい。スタッフの苦労は十分に報われたと思う(笑)。大御所ジェリー・ゴールドスミスが担当した音楽もピッタリはまっていてグー!


 本国アメリカでは高く評価されたものの興行はふるわず、日本では初公開時「砂漠の流れ者」のタイトルでひっそりと短期間公開されて終わった(内容が地味なんで商売にならないと判断されたのだろう)。ようやくリバイバルに際して原題が付記され、現在の「砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード」と改題された(にしても邦題長すぎ)。
 他のパキンパー作品(先の「ワイルドバンチ」や「ゲッタウェイ」、「わらの犬」)と比べるといまいち知名度の低い本作だが、これぞ彼の作家性が真に表現された1本!ファンならずとも是非観て頂きたい。心が洗われます!?