其の158:「ちゃ〜ん」と言えば「子連れ狼」シリーズ

 日本劇画界の大御所であり、屈指のストーリー・テラー:小池一夫。その氏の代表作のひとつが「子連れ狼」。その物語と小島剛夕によるど迫力の作画によって大ヒット!圧倒的な人気を受けて幾度も映画やTVドラマになりました。ここでは若山富三郎が主人公を演じた映画版シリーズについてご紹介(先生一番のお気に入りという田村正和主演の映画は除外)。


 もう余りにもメジャーな作品なので・・・「物語」を書く必要はないと思いますがー柳生烈堂(実在の人物)率いる「柳生一族」の陰謀によって妻子を殺され、職を追われた元「公儀介錯人」拝一刀(=若山大先生)とその子供・大五郎が復讐のため諸国を旅して回る、というもの。


 そもそも「原作漫画」誕生のきっかけは小池先生が編集者との雑談の中で「もし、子持ちやもめの侍がいたら面白いね」という雑談から生まれたのだそうだ。そして主人公の名前は<一匹狼の侍>→<狼一頭>→「拝一刀」と決まる(まるで藤子不二雄先生が考えそうな名前:笑)。
「公儀介錯人」、「裏柳生」、「冥府魔道」ほか天才小池は数多くの<造語>を考え見事な世界観を構築。連載開始と同時に大ヒット作となった。この劇画のファンのひとりが、かの若山富三郎!小池先生に映画化権を取り付けるため自ら連絡したという(プロデュースは実弟勝新太郎!)。


 映画化第1作目が「子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」。監督は<人体まっぷたつ王(筆者勝手に命名)>こと三隅研次。なんと脚本は小池御大ご本人!!だが、当時多くの連載を抱えた小池は映画の脚本まで書く時間がとれず、一部は三隅に電話して口頭で内容を伝えたそうだ(笑)。結果、完成した映画には主人公が炎と激流の中を進む(勿論、合成)いま観るとかなりチャチい「冥府魔道」のイメージシーンはさておき(笑)若山の重厚な演技プラス殺陣&人体スパスパ描写でこれまた大ヒット!都合、6本の作品(!)が作られる事となった(シリーズ通して若山が全て主演)。


 シリーズ中、一番人気が第2作「三途の川の乳母車」。前作に引き続き監督した三隅研次の演出はますます絶好調!<砂漠の砂の中に刺客が隠れる>等のトリッキーな展開のほか<手足スパスパ、出血どぴゅ〜>という谷岡ヤスジも真っ青のスプラッター描写が全編に施され、ファンを狂喜乱舞させた(笑:三隅は6作中4作を監督)。
 ちなみにこの1・2作をロジャー・コーマンが強引に1本に編集した映画「ショーグン・アサシン」(すげータイトル)がアメリカで公開され、クエンティン・タランティーノ(「キル・ビル」でスパスパシーンを引用)らを虜にしたのは有名なトリビアだ。


 小池御大は「乳母車」のほか作中に「ビキニの女」まで出す時代考証一切無視の論法で数々の見せ場を作ったが、映画もそれに劣らず大五郎の「乳母車」には仕込み刀や機関銃が内蔵され(笑)、シリーズ最終作「地獄へ行くぞ!大五郎」(監督:黒田義之)では大勢の敵をバッタバッタと撃ち殺した。
だが、当時はまだ原作漫画が連載中であったため「映画」では肝心の<柳生烈堂VS拝一刀>の決戦バトルが描かれずに終わってしまったのは残念である。
 劇画は後に翻訳されてアメリカでも出版。それに触発されて書かれたアメリカン・コミックストム・ハンクス主演で映画化された「ロード・トゥ・パーディション」である。「サムライ」が「ギャングの殺し屋」に改竄され、こちらは出来が残念だった(笑)。


 映画を観て、烈堂との<結末>が気になる人は是非、原作をお読み下さい!間違っても「続編」の漫画から読んじゃダメよ!