其の470:「座頭市」シリーズ最終回

 暑い中、筆者の初期構想を大幅に越えて書き続けた勝新太郎主演「座頭市」シリーズの最終回デス。

 
1989年(昭和64年でもあり、平成元年)ー。日本はバブル景気の真っ只中(懐)!某ゴルフ場建設会社から劇場版「座頭市」の制作を持ちかけられ(→当時、映画に“投資”を行う企業が多かったのだ)その結果、松竹配給という形で、再び座頭市が甦ることとなった。シリーズ第26作、タイトルもそのものズバリ「座頭市」!製作・脚本・主演・監督はもちろん勝新太郎!!前作「座頭市御用旅」より16年の月日が流れていた。

 役人をからかって牢に入れられていた座頭市は、牢を出たあと旧知の老漁師・儀肋(=第10作「二段斬り」にも出ていた三木のり平)の家へ転がりこむ。その村では跡目を継いだばかりの若き五右衛門(=勝新の実子:奥村雄大。現:雁龍)率いる一家が宿場を仕切るため八州取締役(=陣内孝則)に取り入ろうとしていた。五右衛門の賭場で大儲けした市を子分が取り囲むが、女侠客のおはん(=樋口可南子)がその場をおさめる。ひょんなことから絵を描きながら旅を続ける浪人(=緒形拳)と知り合い、“色”を教えて貰う市。そんな市に度々五右衛門一家が襲いかかるものの、彼には全く歯が立たない。その頃、八州取締役は五右衛門と対抗するため、もう1組のヤクザ・赤兵衛(=内田裕也)に銃を買うことを勧めるが、赤兵衛は五右衛門と彼が通じていることを知っていたため市を用心棒に雇う。一方、五右衛門も絵描き浪人を新しい用心棒として迎え入れ、赤兵衛一家を襲撃するー!!



 これまでに何度も観たような話だが(苦笑)、勝新版・座頭市の<集大成>といっていいだろう(世代的に筆者が唯一、リアルタイムで劇場で観たのが今作)。常に命を狙われていた市の頭髪もすっかり白く・・・いや〜、この年までよく生き残れてきたものだ(笑)。昔からのファンにとっても感慨深いものがあったと思うが・・・今作の制作にはスタートから様々な難問が山積したことでもつとに知られている。

 勝新が脚本作りに頭を痛めるうちに(→市の元仲間に緒形拳、老忍者に三木のり平、浪人に松田優作という配役のアイデア中森明菜をヒロインにした案も出た)あっという間に半年が経過。そこで松竹から<企画打ち切り>の連絡が!慌てたスタッフが勝を説得、ダミーの脚本を松竹に提出し(苦笑)ようやく制作にこぎつける。

 配役には上記あらすじにも書いたように緒形拳樋口可南子陣内孝則内田裕也のほか、片岡鶴太郎に<再登場組>の三木のり平蟹江敬三ジョー山中、安岡力也ら“ロックンロール”な面々も顔を出す豪華キャスト(ジョー山中や安岡はあっけなく死ぬけど:笑)!ぶっちゃけ、樋口可南子はストーリー的には大して重要性はなく・・・“脱ぎ(乳出しあり)”のためだけの出演のような気がしないでもないが。ただ、この劇場版シリーズ初(そして最後の)ヌードということで・・・観客サービスという観点からも<時代の変遷>を感じさせる。

 時代の流れ・・・で書けば、今作の撮影スタッフはこれまでの旧大映・京都のメンバーではなく(←スケジュールの都合)東京のスタッフメイン。当然、東京を拠点としたため、ロケ場所選びもひと苦労。勿論、監督は勝新ゆえ、その場での“閃き演出”に対応するため必要なもの全てをトラックに積み、北は青森。南は広島まで縦断(脚本は3人がかりで常に直していた状態)。おまけにセットは「貸しスタジオ」だったため、そのまま作り置きすることが出来ず、壊しては作り・・・で莫大な費用がかかるハメに(困)。

 新参スタッフが勝のやり方に戸惑う撮影中、殺陣のリハ中に奥村雄大が持っていた日本刀(=真剣)が子分役の殺陣師の首に刺さり死亡する事故が発生、一大スキャンダルとなり大々的に報道された(→奥村に間違えて真剣を持たせたのは時代劇経験のない急遽集められた助監督の一人)。詳細を知りたい人はそのテのサイトか書籍を読んで欲しいが・・・まぁ、本当に関係者全員大変な現場だった。

 その代わりと言ってはなんだが・・・冒頭から今作は異様な熱気(?)に包まれていると思う。牢で床に味噌汁をこぼされた市がはいつくばってすするシーン(前にも1回似たことやってるけど)からして、勝新のヤル気マンマンさが観客にも伝播してくる。合間のバトルでは、首から血ドピューはもとより、刀で斬れた鼻が柱に飛んでへばりつくとかバイオレンスも満載!その場の演出ゆえの欠点か、陣内孝則演じる八州がいきなり発狂するとか、少々展開が雑なんだけど、クライマックスの大バトル(市が大きな樽に入って登場!)は、まぁ・・・壮絶ですわ^^。勝新の殺陣も撮影当時57歳とは・・・とても思えん(驚)!対する奥村の表情がこわばっているのは・・・市への畏怖を表す<演技>だったのか、事件直後の<影響>だったのかは分からないけど。

 
 クランクアップは封切ギリギリのタイミングでありながら、仕上げ作業に徹夜に徹夜を重ね・・・なんとか完成!先述の事件による<話題性>もあって、映画は大ヒットを記録する(→これまでの「座頭市と用心棒」の記録を抜いた)。・・・筆者もその中の一人である(笑)。


 多大な無駄金がかかった&不幸な事故はあったものの「結果オーライ」ということで、勝新には当然“続編”の話も来た訳だが・・・これも有名な話だが翌1990年、“いけないクスリ”をパンツに隠し持っていたことが発覚した為・・・続編企画はナシになった(あ〜あ)。結局、今作が勝製作による<最後の映画>となった(映画出演作品の最後は’90年、黒木和雄監督作「浪人街」)。


 
 1996年7月、下咽頭癌を発病するも手術せず翌97年6月21日、入院先の千葉県柏市国立がんセンター東病院で死去。享年65。こうして破天荒ながら不世出の天才俳優はこの世を去った。だが、「座頭市」をはじめ勝新の多くの作品は残された。これからも「座頭市」を筆頭に勝新太郎主演映画は、我々を楽しませ続けてくれるだろう。


 

 現在、勝新は兄・若山富三郎と共に港区三田の蓮乗寺に眠っているー。



                 
                    <「座頭市」シリーズ・完>