其の147:リーの力作!「マルコムX」

 「リー」と書きましたがブルース・リー御大でも、ましてや二谷友里恵でもありません(笑)。映画監督スパイク・リーであります。コンスタンスに作品を発表している彼ですが、やはりいまのところの最高傑作は「マルコムX」(’92)でしょう!実在した黒人指導者の生涯を描いたリーの力作&超大作であります。


 1925年5月19日、米・ネブラスカ州でマルコム・リトル(=のちのマルコムX)は9人兄弟の7番目の子として、この世に生を受ける。幼少時、一家は<K.K.K>によって引越しを余儀なくされ、マルコム6歳の時には父親が何者かの手により惨殺される。一家の生活は困窮を極め、彼が<犯罪>によって金を稼ぐようになるのに時間はかからなかった。
 1946年、逮捕された事がきっかけで<勉学>に目覚めた彼は「図書館」にあった書物をむさぼるように読み始め、<黒人に対する白人の暴虐、圧迫、搾取の歴史>を知る。
 出所後、家具店のセールスマンとして働き始めた彼は<イスラム教徒>となり、布教活動に専念。やがて「黒人解放運動指導者」として頭角を現し、かのマーティン・ルーサー・キング牧師同様、黒人解放運動を牽引していくが1965年2月21日、講演中に暗殺される(享年39)。


 「我々は、人間として尊重されて生きる権利を要求する。今、この地球上で、いかなる手段に依っても、この実現のために、闘う。手段は問わない。」過激な発言でも知られた伝説の黒人指導者・マルコムX。同じ黒人である映画監督スパイク・リー(「ドゥ・ザ・ライト・シング」、「ジャングル・フィーバー」「インサイド・マン」)は彼の自伝を読んだ中学生の時から「いつかきっと映画にしたい」と想い続けたきたという。まさにリー執念の映画化にして渾身の一作(例によって自分も出演してます)!「(この映画製作を)邪魔する奴がいたら、きっと殺していた」とは本人の弁(苦笑)。映画の冒頭、ロス暴動の原因となった「ロドニー・キング暴行事件」のビデオ映像に始まり、星条旗が燃えて「X」の文字が浮かびあがるタイトル・バックほかリーの映像センスが随所に感じられる。


 主演は「トレーニング デイ」でアカデミー主演男優賞受賞のデンゼル・ワシントン。これがまぁ、マルコムX本人にそっくり!デンゼルの演技力については、いまさらここで説明する必要はないが今作でも完璧に役になりきった。「スピーチのシーンの彼は、マルコムXその人が乗りうつったような凄みさえ感じた。」とリーは絶賛している。


 筆者の劇中、<印象的なシーン>のひとつがー小学生の時のマルコムと教師とのやりとり。クラスで成績トップだった彼は「将来は弁護士になりたい」と言う。それを受けて教師が言う。「黒人はいくら成績が優秀でも弁護士にはなれないんだよ。」いくら有能であっても、それ以前に立ちふさがる<人種差別の壁>・・・。生きるため(=まともな職業にありつけない)犯罪に手を染めたマルコムを誰が非難できようか。映画を観ていて大いに憤った覚えがある。


 マルコムと同じく、撮影終了後リーの前にも<人種差別の壁>が立ちふさがる。編集段階で予算をオーバーしたが、これに対してスタジオは一切追加資金は出さないと彼に宣告。すると各界で活躍する黒人有名人(ビル・コスビーマジック・ジョンソンマイケル・ジョーダン、プリンスほか)がリーに援助金を贈り、この危機を逃れた。
また本編が3時間21分にも及ぶ長尺である事と先述した冒頭からタイトルバックへの展開にもスタジオは難癖をつけている(これに対しリーは映画「ガンジー」や「JFK」の例を挙げ、同等の時間が今作にも必要だと主張した)。黒人差別は映画が公開された1990年代(ほんのつい最近!)にあっても対して変わっていない事がよく分かるエピソードである。


 映画「マルコムX」は本国アメリカよりも日本の方がヒットしたそうで、案の定(!?)日本のCMに引っ張り出された。その時のコピー「スパイク・リー!Xの次はZ(ジィー)!」のナレーションにあわせて本人が目薬をさす(笑)。映画同様、筆者の記憶に今も強く焼きついている(いいんだか悪いんだか:笑)。