其の146:女囚を越えた女囚映画「さそり」シリーズ

 一時期、映画界には「女囚もの」と呼ばれる一大ジャンルが存在した。この分野における制作サイドのメリットは「低予算」でありながらアクション(=喧嘩やリンチ)とエロ(=シャワー・シーンやレズ)で大勢の男性客を呼べる事(笑:「ジャッキー・ブラウン」で知られるパム・グリアも若い時には、このテの作品に多く出演した)。ともすれば今回ご紹介する「さそり」3部作もその<範疇>で終わるところであったが、監督・伊藤俊也+主演・梶芽衣子(「修羅雪姫」!)は<奇跡的傑作>を生み出した!!


 記念すべきシリーズ第1作が「女囚701号 さそり」(’72)。梶芽衣子(若い時は「バトル・ロワイアル」の柴咲コウにくりそつ!)扮する松島ナミは恋人の刑事・杉見に麻薬捜査の囮に使われた上(おかげで強姦されたのに)あっさりポイ捨て。怒り狂ったナミは杉見を刺したものの殺害は出来ずに逮捕!虐待・集団リンチ・レズ行為が渦巻く過酷な女刑務所の中でナミは「復讐」だけを心の支えに、非情の女<さそり>として怨念を燃やしていくのであった・・・。


 エロ・バイオレンスの巨匠・篠原とおる大先生の劇画の映画化。これが監督デビュー作となった伊藤俊也梶芽衣子を<全てのものに反抗する女>に設定。「低予算」(「刑務所」の外観はなんと撮影スタジオ!)ではあったものの、パワフルな演出で一味も二味も異なる<女囚映画>に仕上げた(今では考えられない事だが伊藤は当初、梶ありきの企画でありながら彼女の起用に反対したという)。
いま観るとー警視庁の前でナミが杉見を殺すべく包丁を持ち、シュミーズ一丁で襲うシーンは爆笑ものではあるのだが(そら捕まるわ)。


 大ヒットを受けて急遽作られた<続編>が同年公開の「女囚さそり 第41雑居房」。強制労働と性的陵辱渦巻く女刑務所(時間軸は前作から続いている)で、再びさそりの反逆が始まる!もうほとんど原作は無視!伊藤の若さ&才気が全編にあふれている。にしても、この作品が<正月映画>というのだから・・・やはり<70年代>は凄い時代だったなぁ(笑)。


 伊藤・梶のコンビ最終作となった「女囚さそり けもの部屋」(’73)・・・凄いタイトルだ(笑)。さそりはついに脱獄に成功!シャバへ再び舞い戻るのだがー今作でさそりは<復讐の鬼>を遥かに超越して<反国家権力の象徴>にまで昇りつめる!!いつの間にか・・・壮大なスケールの作品に変貌してしまった(笑)。


 伊藤が<さそり>の演出において念頭に置いたのは「ストーリーを連続させる」、「1作ごとに方法論を変える」事であったという。そのため3作で全てをやりつくしてしまった彼は、いくら会社から懇願されても第4作は引き受けなかった。その後、監督・主演女優が変わりながら「さそり」は次々と作られていくが(「Vシネ」もあり)、当然のことながら先の3部作を越える事はなかった・・・。


 才気溢れる若き監督と傑出した女優が生み出した産物ーそれが「女囚さそり」である。柴咲コウ主演で誰か「女囚映画」撮らないかなぁ。「どろろ」じゃなくってさ(笑)。