其の131:隠された真実「父親たちの星条旗」

 この秋から冬にかけてご高齢(失礼!)の大御所監督作品が相次いで公開される。山田洋次監督の「武士の一分」、市川崑大先生の「犬神家の一族」(セルフ・リメイク!)、そしてクリント・イーストウッド御大の<硫黄島2部作・第1弾>アメリカ側の視点で描かれた「父親たちの星条旗」!!かのスピルバーグがプロデュースする超話題作である。

 米・アーリントン墓地の海兵隊記念碑になり、第2次大戦時の有名なスチール「硫黄島国旗掲揚」−その写真撮影に秘められた<真実>を暴く実話の映画化である。実はあの写真は<2度目の国旗掲揚>である事は「歴史・戦争・雑学マニア」なら割りとよく知られているネタのひとつ!だが、その後の彼らの<運命>までは筆者も知らなかったのでー興味深く観られました。

 物語は<現代>と<硫黄島攻略戦>、そして<硫黄島攻略後>の3つの時系列が交差する構成。1945年2月19日の米・海兵隊硫黄島上陸を皮切りにー当初は5日で占領できると思われていた攻略戦がー実に36日間にも及ぶ<史上空前の大激戦>となる(米軍の死傷者数が日本軍のそれを上回った唯一の戦場)。その最中、撮影された1枚の写真・・・。
 これが新聞その他に掲載された事で厭世気分に襲われていたアメリカ国民は意気高揚!そこで国庫破綻寸前の政府は国旗掲揚に参加した6人のうち3人の兵士を本国に呼び戻し(残り3人は写真撮影後、ほどなく戦死)、国債購入の<プロパガンダ>に利用する。思わぬ<英雄>扱いされた3人の行く手に待っていたものとは・・・。

 脚本は「ミリオンダラー・ベイビー」、クローネンバーグじゃない方の「クラッシュ」を手がけたポール・ハギス。長大なルポタージュ(=原作)を巧みに脚色しているのですんなり観られる。
また必須となる<戦闘シーン>はスピルバーグがプロデューサーゆえ「プライベート・ライアン」並のリアル描写(あそこまでグロではないが)!手持ちカメラを多用し・・・ほとんど「ノルマンディー」状態(笑)。映像的にも「銀のこし」を使う事で生なましさを消し、味わい深い仕上がりとなっている。

 イーストウッド御大はーあえて<作家としての主張>を加えず、時に淡々と時に荒々しく緩急交えたメリハリのある演出。「硫黄島で何があったのか?」を極めて丁寧にみせてくれる(ロケ地はなんとアイスランド!)。これまで硫黄島の戦いを描いた作品は幾つかあったがー今作が「決定打」になる事はまず間違いないだろう。

 <英雄>に祭り上げられた3人の兵士(ライアン・フィリップジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ皆、好演!)それぞれの様子と、その後の<残酷な運命>も明らかにされる。所詮はでっち上げられた張子の英雄・・・。戦場から無事に生きて帰ってきたとはいえー「その後の人生」は思い通りにはならなかった。ただ心に深い傷を負っただけの事。

 「戦争は善と悪という単純な図式ではない」、「戦争に真の英雄などいない」−イーストウッドは静かに<反戦>を訴えている。続く第2弾「硫黄島からの手紙」(日本からの視点で描いた硫黄島)が楽しみだ!!