其の263:市川崑×石坂浩二「金田一」シリーズ②

 1977年8月27日に公開されたシリーズ第3作「獄門島」。昨年からの横溝ブームを受けて、この年4月からは古谷一行主演のTVドラマ「横溝正史シリーズ」がスタート、松竹も東宝に負けじと「八つ墓村」を公開。現代に舞台を置き換えているし(原作では昭和23年)、「寅さん」の渥美清金田一だし(苦笑)公開前は苦戦が予想されたのだが時流に乗ったラストのホラー・テイストがウケ、「たたりじゃ〜!」は流行語にもなり、ブームの立役者「犬神家の一族」を越える大ヒットとなる。世はまさに「金田一」一色だったのだ!そこで市川崑御大は東宝に言われるがまま(つらいのう:苦笑)シリーズ最終作として今作の制作に着手する。


 昭和21年、岡山県金田一耕助石坂浩二)は友人から依頼を受け、瀬戸内海の孤島「獄門島」へ向う船着場へ。そこで偶然、島の有力者である了然和尚(佐分利信)に荒木村長(「七人の侍」のメンバー、稲葉義男)、医者の幸庵(「まあだだよ」の松村達雄)の3人と知り合う。金田一は彼ら3人に宛てた「紹介状」を持っていた。紹介状を書いたのは島の網元の息子で、先日亡くなった鬼頭千万太。彼の遺言は「獄門島へ行ってくれ。自分が死んだら3人の妹たちが殺される。」という不吉なものだった・・・。
 島へ到着し、千万太の実家「本鬼頭(「分鬼頭」という分家があるため、こう呼ばれる)」を訪れる金田一。千万太は亡くなったものの、同じく出征していた分家の一(ひとし)は直に復員してくるらしい。その日を境に予言通り、3人の娘たちが奇々怪々な状態で殺されてゆく!!


犬神家の一族」、「悪魔の手毬唄」そして「獄門島」3作の共通点といえば「どろどろした因習」、「複雑な人間関係」、「親子の情愛」等が挙げられるが(「悪魔〜」は金田一と磯川の<友情物語>を軸としているのがファン高評価の要因)加えて、どの作品にも全て「見立て殺人」がある。「犬神家〜」は犬神家三種の神器「斧・琴・菊」、「悪魔〜」はタイトル通り「手毬唄」。そして今作ではご存知のように「俳句」!これは横溝御大も語っているようにアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」に多大な影響を受けて書かれている(加えてエラリー・クイーンの名作「Yの悲劇」の影響も指摘されている)。
 またファンにとっては常識だが、小説「本陣殺人事件」で初登場した金田一。続く2作目にあたるのがこの「獄門島」(金田一小説は短・中・長編あわせて計77作もある)。映画は原作の時系列通りに製作していないので今作は「犬神〜」や「悪魔〜」よりも古いお話で、且つ<最初に見立て殺人を行った作品>でもあるのだ。


 横溝御大は晩年「自作ベスト10」を選出、その第1位に「獄門島」を選んでいるが(ちなみに2位から5位は「本陣殺人事件」、「犬神家の一族」、「悪魔の手毬唄」、「八つ墓村」の順)ミステリー・マニアを自認する市川先生が<最終作>として原作者自ら最高傑作という今作をチョイスしたのは流石である^^但し、原作と犯人を変える事にしたので(=許可した横溝御大は凄い)脚本執筆には大変苦労したそうだが(笑:誰もいわないけど変更部分は少々「砂の器」入ってる)。


 先日、20数年ぶりに原作を読み返した上で映画も再見したのですが・・・いや〜、よく出来てますわ!原作では金田一自身が鬼頭千万太の戦友だとか、島で事件が起こったのは金田一が島に滞在してしばらくしてからだとか少々異なるものの、全体的には違和感なし。あの長編をよくぞここまでうまくまとめた(天晴れ)。犯人の変更(=当時、「犯人あてクイズ」を実施した!)は、ファンによって賛否両論あるだろう。筆者的には「これもあり」だが。ただ、唯一惜しまれる点がラストシーン!原作では金田一が島の娘・早苗(=映画で演じるのは大原麗子)を好きになるものの、最後は「失恋」。傷心のまま島を去る。そんなブルーの彼をみかねて船長が粋なセリフを言うのだが・・・映画では金田一の恋を匂わす程度にしているので最後のシチュエーションが丸々改変されている。そこは・・・原作の方が良かったなぁ。


 今作のキャスティングもこれまで同様、超豪華!石坂浩二金田一を完全にものにした感あり(もじゃもじゃヘアは地毛からズラにしちゃったけど)。了然和尚を演じた佐分利信は原作通り、姿も声も重厚(笑)。稲葉義男も松村達雄もイメージぴったり!ヒロインの大原麗子は可憐だし(いま何してんだろ?)、故・太地喜和子は妖艶。司葉子も綺麗。お約束のレギュラーメンバー加藤武草笛光子大滝秀治三木のり平(「桃屋」の人)らは相変わらずいい味出してる。でもって坂口良子はめちゃめちゃ可愛い^^
 ちなみに殺されるキ○ガイ3人娘のひとりを浅野ゆう子が演ってます。司葉子の少女時代を荻野目慶子が、若い僧侶に「機動戦士ガンダム」のシャア・アズナブルの声優、池田秀一が扮しているのは今では有名なトリビア


 筆者が数ある金田一映画の中で、何故市川作品を偏愛しているかと言えばーやはり「原作のスピリットを大切にしている」という点に尽きる。金田一の服装はもとより(=市川以前の作品だと金田一がスーツを着ている!)、なにより重要な原作の時代設定<戦後を引きずった昭和2、30年代>が映画の中できっちり再現されているから。戦後の大変革にもかかわらず(=外国に別の価値観を押し付けられた)、土地の旧き因習に捉われているかつての日本人の姿が筆者にはなにより魅力的に写るのである。横溝御大もきっと「おどろおどろしさ」の中に本来の日本人の姿や本質を表現しようとしていたのではなかろうか。


 公開された映画は完成度の高い大娯楽作として、またまたヒットを飛ばす。こうして3部作を見事に完結させた市川御大だったが・・・彼の思いとは裏腹にまたまた東宝は無茶な指令を下すのであった(→以下、③に続く)。

 
 <蛇足>最後になったが原作のモデルとなったのは瀬戸内海に浮かぶ六島(「むしま」と読む)。ロケはその隣、真鍋島を中心に行われた(=DVDの解説書はここ間違い)。但し、島の全景は九州・屋久島方面で撮影されたものだし、海から見た崖は西伊豆の伊浜である。全て真鍋島だと勘違いして見学旅行に行かないように(笑)。