其の367:爽やかな快作「インビクタス 負けざる者たち」

 クリント・イーストウッドの監督最新作&実話の映画化「インビクタス 負けざる者たち」を観た。舞台となる南アフリカ共和国は次のサッカー・W杯開催地だが・・・ほんのす〜こし前に、こんな感動的な物語があったとは!勿論、オチ分かってて観てるんだけど「面白い」というよりは「いい映画」!「本当にいい映画」^^。ちなみに「インビクタス」とは“征服されない”という意味です。

 1994年、27年もの間投獄されながらも釈放後、南アフリカ共和国初の黒人大統領に就任したネルソン・マンデラ(=演じるのは「ショーシャンクの空に」、「セブン」モーガン・フリーマン)。彼はアパルトヘイトを経て「白人と黒人が和解しての新しい国作り」を目指して東奔西走する。そんな時、彼が着目したのは1年後に迫ったラグビーのW杯。白人がメインながら弱小の代表チーム(=キャプテンに扮するのは「ボーン」シリーズのマット・デイモン)が優勝すれば、国民の意識も変わってくれるー。マンデラ、彼の側近たち(官僚よりもSPの描写に比重を置いているのがいい)、そして代表チームの面々・・・長年にわたる差別や確執、憎悪を乗り越えて白人と黒人たちは果たして<ひとつ>になることは出来るのか!?
 ちなみにこの映画は背景にアパルトヘイト(=人種隔離政策。’94に完全撤廃された)の問題があるので、知らない人は事前に予習していきましょう^^。生涯勉強です(笑)!

 そもそも今作製作のきっかけはマンデラが自伝を執筆した際、「もしこの本が映画になるとしたら誰に自分を演じて欲しいか?」との質問にマンデラがフリーマンの名を挙げたことで、映画化権を買った南アフリカ共和国の映画プロデューサーが彼にアポをとったことからスタートした(→フリーマンは今作で製作総指揮も兼任)。マンデラと度々会う機会を経て、ようやく脚本も完成。信頼を寄せるイーストウッドにシナリオを送って監督を依頼する。こうして「許されざる者」(’92)、「ミリオンダラー・ベイビー」(’04)に続く3度目のイーストウッドとのコンビ作となった(→今回はイーストウッドは出演なし)。

 フリーマンは万民が認める名優のひとり・・・なんて今更書く必要もないでしょう。劇中いくつも名スピーチがあるのだが、その全てが感動的で説得力十分なのはフリーマンの確かな演技力があってこそ(以前「ディープ・インパクト」でもアメリカ大統領役やってたし)。マット・デイモンでなくとも魅了される(笑)。時折フリーマンかマンデラか、筆者も途中でごっちゃになった程だ。
 一方、デイモンもラグビー選手役のため身体を鍛え、南アフリカ訛りの英語をマスター。モデルになった実際の選手にも会ってリサーチするなど初めてのイーストウッド作品出演のため頑張ったそうです。さすがハリウッドスター、ただのジミー大西似じゃない(笑:ファンの方すみません。悪意はありません)。

 監督を引き受けたイーストウッドはリアリティーを追求して全編、南アフリカ共和国ロケを敢行。劇中、登場する刑務所はー実際にマンデラが投獄されていた場所&部屋!このネタ知ってると「こんな狭くて粗末な部屋に30年近くもいたなんて・・・」と絶句するよ。また「ラグビーのシーン」には95年当時メンバーだった実際の選手に協力&コーチを要請。全編に渡って<本物志向>を追及している。W杯の決勝シーンは・・・いいよ〜(ちょっと「ロッキー2」っぽいかんじ)。

 イーストウッドの諸作を観ている人には言わずもがなだが、彼の演出って超正攻法。派手なCGもなければ、観客の意表を突くトリッキーな演出やカメラワークもないけどーそれがいい!こういった実話の感動作(→結末はネタばれになるんで書かないけど、ミエミエなんで泣いたりとかしないけどさ)において変なことはしない方がいいのだ。本人も十分それ認識してやってると思うけどーいや〜、ここ何本かの彼の作品にハズレはないね!凄い!!


 誰も余り言わないんで、あえて書くけどーもし<俳優>としての彼の絶頂期が「荒野の用心棒」から「ダーティハリー」直後ぐらいであるならば、<監督>としての絶頂期(=あるいは黄金時代と言い換えてもいい)は今年も含めてここ数年のような気がしてならない。我々観客はそんな最高の作品群をいま、リアルタイムで観られる幸福な状況にあるわけだ。すでに取り掛かっている次回作も大いに楽しみ(マット・デイモンが主演だって)^^。


 <余談>感動的に終わるこの「インビクタス」だが、マンデラ退任後(1期であっさり引退。御大は今年の7月で92歳になられる)の政権は白人政党を閣外に出してしまった上、国民にあまり関心を払わなくなったため失業率が増加。治安も悪くなり、W杯開催も一抹の不安が残るような国になってしまった。W杯前に今作を本国・南アフリカで上映して、政府の高官や国民にあの当時の感動と熱狂を思い出してほしいね!まだ、わずか15年ほど前の話なのだから。