今週末は多忙で時間が取れないので、いまの内に更新します(苦笑)!
横溝正史ブーム、真っ只中の70年代末のニッポン。「犬神家の一族」、「悪魔の手毬唄」、「獄門島」と日本初の本格探偵映画(多羅尾伴内とかは活劇だし)をことごとく成功させた巨匠・市川崑。最終作「獄門島」を完成させ、念願の大作・手塚治虫の「火の鳥」の実写映画化(=原作は「黎明編」)に着手した御大であったが・・・東宝から無理矢理、次回作としてある小説を渡される。それがシリーズ第4作の「女王蜂」(’78)。完全に決めうち(笑)。原作を読んだ御大は「絵になりづらい」と困惑、丁度横溝先生が「金田一耕助、最後の事件」として連載を終えたばかりの「病院坂の首縊りの家」を主張したが却下された(=理由は後述)。
昭和27年、秋。静岡は伊豆天城山中「月琴の里」。大道寺銀造(仲代達矢)の血のつながらない娘・智子(中井貴一の姉、中井貴惠のデビュー作)は、3人もの男性に求婚されているモテモテの女の子。そんな彼女は19歳になる誕生日の日に京都にある大道寺家の別宅へ居を移す事が決まっていた。そんな折、彼女の京都行きを阻止しようとする脅迫状が届く。「彼女が京都へ行くと血が流れる。彼女は男を食い殺す女王蜂だー」。
智子の誕生日当日の朝、大道寺家所有の時計台の内で求婚者のひとり、遊佐(石田信之)が殺された。そこには謎の青年・多門連太郎(沖雅也)の姿が・・・。こうして我らが金田一(石坂浩二)登場、舞台は京都にうつるものの・・・いつものように第2、第3の殺人が起きてゆく^^
市川御大が動揺するのも無理はない。原作は昭和26年の初夏、伊豆の小島「月琴島」(架空の島。「悪霊島」とか横溝先生は島好き?)と東京(=金田一が「歌舞伎座」で歌舞伎を鑑賞!)を行き来しながら展開する長編ストーリー。殺人は撲殺、毒殺、刺殺とバラエティに富んではいるが、これまでのような「見立て殺人」はないし、いつもの怨念的要素もないし、特に<昭和27年の東京>を再現するのはーいまならCGで可能だが、当時は巨大オープンセットを建てるしかないー予算的、スケジュール的にも困難。それも「火の鳥」と同時進行で!
いくら御大といえども体が2つあるわけではないので脚本に桂千穂(「転校生」)、伊豆の撮影を第2次大戦もので知られる松林宗恵監督に任せて(クレジットは「協力監督」)なんとか乗り切った。ちなみに当時、御大63歳・・・やっぱりこの人は凄い!
御大は原作にありとあらゆる脚色を施した。「月琴島」の設定は陸続きの「月琴の里」に変更。撮影時期も考えて「東京」を「京都」(=紅葉が綺麗)に変えた。今作は「正月映画」でもあったので、結果「茶会」のシーン(京都の名刹・仁和寺で撮影)等には華やかさが加えられる事となる^^にしても「正月」早々、「連続殺人」とは(爆笑)。 加えて、原作にはない「怨念のルーツ」もプラスした。細かいこと言うとヒロインの親父の名前は映画では「銀造」だが、原作では「欣造」である。
更に御大は「本当にこれで終わらせて!」とばかりに、これまでの<総括的超豪華ウルトラキャスティング>を敢行。女優陣には「犬神家」の高峰三枝子、「悪魔の手毬唄」の岸恵子、「獄門島」の司葉子と揃い踏み!勿論、加藤武を筆頭に大滝秀治、草笛光子、白石加代子、常田富士男、小林昭二に三木のり平&坂口良子の姿も。最近、筆者は連続で「金田一映画」を見続けているので・・・段々こんがらがってきたが(苦笑)。
シリーズ初登場の仲代達矢は・・・今作でも重厚(笑)。中でも凄いのは求婚者のひとりを演じた神山繁!どう見てもズラのロン毛を振り乱して怪演。「涅槃で待っている」沖雅也は、いま見てもイケメン美青年で、原作の記述にぴったりだ。「ミラーマン」の石田信之、「仮面ライダー2号」の佐々木剛も出ているので「特撮おたく」はその辺にご注目を。
冒頭に書いた「女王蜂を映画にしなければいけなかった理由」・・・それは東宝がカネボウ化粧品と「タイアップ」していたからである!名優・佐田啓二の娘、中井貴惠をヒロインに起用(=御大もOK出した。でも、どう贔屓目に見ても「女王蜂」には、ちょっと・・・)、「口紅にミステリー」(劇中、加藤武の台詞にも出てくる)をキャッチコピーに口紅「ツイニー」を大々的に売り出したのだ。そのCMは・・・筆者は今でも覚えているが「撮影の舞台裏」という設定で石坂、中井、市川御大も出演。♪〜ミステリアス・ツイニーの曲が流れてたっけ。
演出もこれまで同様、様々な映像テクを駆使(新たに今回はマルチ画面を2度も使用)。女性客も取り込んで前作、前々作以上のヒットとなる。ところが「女王蜂」を無理矢理作った弊害かもしれないが、夏に公開された肝心の「火の鳥」(主人公の少年に尾美としのり。猿田彦は特殊メイクした若山富三郎!卑弥呼に高峰三枝子)は実写とアニメを合成した「ロジャー・ラビット」よりも早い試みだったが・・・失敗に終わった(苦笑)。
「女王蜂」でスタートした1978年の日本映画界。この年の夏、<あの映画>が公開され世界の映画は大きく変わってゆくこととなるー。<次回、この項最終回に続く>