其の122:真実の持つ重み・・・「フラガール」

 <宣伝>において、何より「口コミ」は非常に重要な要素だと思う。特になんでも誉める映画評論家のお薦め映画なぞ誰も観る気はしないだろう。
今回、紹介する「フラガール」はー久々に周りの評判がいい。・・・なので観た(笑)。
常磐ハワイアンセンター」(現:「スパリゾートハワイアンズ」)といえば日本初のテーマパークだが、この開園の知られざる裏側を「実話」に基づいて描いたのが今作である。まさに「フラダンス版プロジェクトX」!!


 物語の舞台はー昭和40年、福島県いわき市の炭鉱町。世は石炭から石油へシフトする時代へと変わり、日本各地の炭鉱は閉山を余儀なくされていた・・・。そこで一計を案じた炭鉱会社は、雇用を確保するため湧き出す温泉を利用し、ハワイをイメージしたレジャー施設建設を計画する。そこで募集されたのが「ハワイアン・ダンサー」!炭鉱町で生まれ育った女子高校生・紀美子(蒼井優)は友人に誘われるまま参加することを決意。ところが東京からやってきた講師・平山まどか(松雪泰子)はー教える気ゼロ!おまけに生徒は・・・わずか4人。だが、紀美子たちは<閉塞した現状>を変える為にもダンスを猛特訓!まどかも彼女たちの懸命な姿をみて、踊りへの情熱を取り戻していく。やがてリストラに伴い、元炭鉱夫の娘たちによる生徒も増えていくが、周囲の偏見は根強かった・・・。


 昭和40年当時といえばーまだハワイは現在と違ってあくまでも<憧れのハワイ航路>!おまけに福島県の炭鉱町にその「ハワイ」を作るともなれば、<無謀な試み>だと受け止める方が自然だろう。また、フラダンスによる<肌の露出>も非難の的になった事は言うまでもない(劇中でも、そういう描写あり)。そんな時代にあって、数々の困難を乗り越えて初代フラガールになった女性たちと先生の姿が感動的に描き出される。


 「史実」を下にしながらも(勿論、モデルとなった方々もいる)自由に脚色された物語には「セカチュー」以降、定番となった感動的要因が幾つも含まれている。「家族」、「親子の確執」と「絆」、「友情」と「別れ」、「肉親の死」、「挫折」、「特訓」ほかー泣ける要素満載!それらが連続波状攻撃を仕掛けてくる(笑)。涙腺の弱い人は何度でも涙することだろう。勿論、「モデル」となった実際の先生はー借金苦でも飲んだくれでもない(笑)。


 見所は数々あるがー何といっても松雪泰子蒼井優のフラダンスが圧巻!!3ヶ月にも及ぶ特訓を受けたそうだが、素直に「凄い!」と見入ってしまう出来。特に蒼井は方言も完璧にマスターし、更にダンスの練習・・・。若手女優、数多かれど、他の人より今作で一歩抜け出た気がする。この作品で「遊びやバイト感覚ではなく、女優業に一生を捧げる」という彼女の決意がハッキリと見えた(=俺には)。また、フラガールのひとりに扮した「南海キャンディーズしずちゃん」は、単に<にぎやかし>かと思ったら、思いのほか大きな役でビックリした(笑)。
「ラスト」は勿論、「常磐ハワイアンセンター」が開業を迎え、彼女たちの踊りでクライマックスを迎える。その爽快感はー某女子校生ジャズ映画より断然、上!


 <映画上の作劇>としてー映画通であれば「ミエミエの伏線」や「お約束の展開(ギャグ含む)」がないわけでもない(関係者の方、失礼!)。「ハワイアンセンター」はフラガールのほか、従業員から太鼓叩きまで全てが炭鉱関係者が転職して担当したという(あくまで失職した彼らを救うための計画だった)。その辺の描写もあれば、もっと作品の幅が広がった、とも思う。
 だが<戦後20年目>にして大きく時代が転換しつつあった当時ー周囲の非難や偏見にもめげることなく、自分の可能性を信じて「人を喜ばせて自分の喜びとする職業」に取り組んだ人々がいたという真実の重みが・・・他の凡庸な<泣かせ系映画>とは一味も二味も違うのだ。
 女性向け映画だとは思うが、老若男女問わず全日本人に観てほしい映画である。こういった先人たちがいたのだ。希望を持って明日へ進もう!!