其の115:やっぱりハリウッド「明日に向って撃て!」

 最近、何気にヨーロッパの映画を観る事が多い。50年代のポーランド映画に始まり、フランスのフランソワ・トリュフォーの諸作(例「恋のエチュード」「黒衣の花嫁」他)を見直し、フィンランドの人気監督アキ・カウリスマキの「過去のない男」、そしてスペインのペドロ・アルモドバルの「オール・アバウト・マイ・マザー」等など・・・。どれも悪い映画では決してないし、同業者的には面白いとも思うのだがー感激するまでには至らなかった(残念:あくまで個人的意見ですので悪しからず)!
 その点、<全世界向け>に作られるアメリカ映画はー映画作りのツボを心得ているようにも思う。きちんと物語の軸があって、ラストに向け盛り上げてゆく(その分、トホホ系空疎な大作も多いが)。TVの作り方もこれと同様である。
そこでアメリカン・ニューシネマの傑作である「明日に向って撃て!」の登場だ(フリが長い)!


 西部開拓時代末期。ギャング団の頭目ブッチ・キャシディポール・ニューマン)と相棒サンダンス・キッドロバート・レッドフォード)は仲間と別れ、サンダンスの愛人エッタ(「卒業」のキャサリン・ロス!)と共に自由の地を目指して旅を続けるのだが・・・これ以上は、メジャー作だから「あら筋」はいいよね!?


 西部劇のスタイルをとった<青春映画>と呼んでも過言ではないお洒落な作品。
監督ジョージ・ロイ・ヒルの才気溢れる演出がなによりも見もの。セピアのかかった粋なオープニングに始まり、ウィットに富んだ会話。シックな衣装。そして有名なニューマンとロスが自転車に二人乗りする時に流れる名曲「雨に濡れても」を始めとするバート・バカラックの軽妙華麗な音楽!!時代劇にロック流した深作の「里美八犬伝」よりも早いぞ。まさに「新感覚ウエスタン」、これぞ「西部劇のニューウェイブ」!!


 ニューマンとレッドフォードのコンビぶりもまた絶妙!ふたりで滝に飛び込むのを始め、ラストには「ワイルドバンチ」よろしく軍隊相手に大銃撃戦になだれこむ!!
この作品の成功によって監督ヒル、ニューマン&レッドフォードのトリオでウルトラ大傑作「スティング」が作られることになるのだ!
 ちなみにレッドフォードが主宰する「サンダンス映画祭」のサンダンスがこの映画の役名に由来するのは、映画ファンなら誰しもが知るトリビアである。


 映画の<ラスト>はストップ・モーションで終わるのだが(ヒルの心憎い演出だ)、高倉健主演・薬師丸ひろ子のデビュー作「野性の証明」も同様の展開!!「野性〜」を観た時、「明日に〜」をヒントにしたであろうことは容易に推測出来た(笑:だって森村誠一の原作はこんなんじゃないんだもーん)。これも、「明日に〜」がいかに優れた出来であった事の何よりの証拠だろう。国籍問わず老若男女ー即ち万民が楽しめる傑作だと思う。