其の111:大作=面白い映画では決してない!

 その昔、男性ADが筆者にある映画について語った。その作品は今では<底抜け超大作>とされている悪名高きバカ映画。故に反論したところ、彼曰く「でも凄いお金かかってるし、人気俳優も出ている・・・。」
呆れ果てた。「金がかかっていてスターが出演=大作=いい映画、面白い映画」と考える単純な図式に!もし、これが真実なら「アルマゲドン(宇宙に酸素や重力がある)」や「ボルケーノ(火山帯のないロスで噴火)」も<傑作>となってしまう!!
 こうした輩を是正する為に<低予算でも傑作な映画>を簡単ながら3本、ご紹介します!


 まず、古くはスピルバーグ出世作「激突!」。元は<TVドラマ>でしたが、その出来のよさに海外では「映画」に格上げされて公開されました(スピの映画デビュー作は「続・激突!/カージャック」)。平凡なサラリーマンの車が、のろのろ走っているタンクローリーを追い抜かしたところ、キレられて延々追い掛け回されるーという低予算かつシンプルな筋立て。でも、これが滅法面白い!!
 スピはタンクローリーの運転手を見せることなく、ただひたすら追ってくる様子をあらゆるカメラ・ワークを駆使して演出。その見事な手腕によってタンクローリーを<現代の怪物>として描き上げました。これが後の大ヒット作「ジョーズ」の原点になった事は言うまでもありません。


 続いて「マトリックス」の兄弟による監督デビュー作「バウンド」(先にふたりはシルベスター・スタローン主演の「暗殺者」の脚本家として業界入り)。これは女ふたりによる<犯罪サスペンス>です。
 勿論、こちらも「激突!」同様、低予算。但し、それを逆手にとって本来、場面が異なる場所のセットをつなげて作る事によって非常にトリッキーなカメラ・ワークを行うなどあちこちに創意工夫がみられます。観客サービスとして主人公ふたりの「熟女レズ・シーン」もあり(笑)。サスペンス好きは勿論、そのテのマニアにもご満足頂ける1作です。


 そして最後が、いつのまにか無駄にシリーズ化されていった(笑)「CUBE」。
こちらは・・・一言で表現するなら「不条理SFサスペンス」といった趣き。誰が作ったのかよく分からない建物の室内にいきなり閉じ込められた数名の男女。当然、彼らは脱出を試みるのですが、各部屋には想像を絶する様々な<トリップ(=罠)>が仕掛けられていた・・・!!
 映画を観る限りは決して分かりませんが、この作品も低予算につき作られたセット(=部屋)はなんと2つ分だけ!それを工夫して様々な部屋に仕立てていたのです!


 このように優れた「脚本」と「演出」、そして「創意工夫」が施されていれば大スターが出ていなくても(上記3本も該当)、大予算がかけられていなくとも<面白い映画>は出来るのです(勿論、今回とりあげたものの他にも沢山面白い映画あり)。
 「大作だから」「有名人気スターが出ているから」−そんな安易な理由で映画を観たり誉めるのではなく、もっと広い視野を持って映画に接して頂ければ・・・と心から思う次第です。


 でも「低予算」「単館公開」=面白い、というこれまたシンプルな図式でもありませんので勘違いしないように(賢明な読者の皆さんが正しく理解されている事は筆者も承知しております)!!