其の93:消えた巨匠?溝口の「雨月物語」

 溝口健二監督の名も最近、聞かなくなりましたねぇ。かつては「黒澤・小津・溝口」と呼ばれた日本が世界に誇る巨匠だったのだが。今年はそんな彼の没後50年!それを勝手に記念して(笑)彼の代表作ー「西鶴一代女」、「元禄忠臣蔵」、「山椒大夫」ほか色々ありますが、最も世評の高い「雨月物語」を紹介します。彼の全盛期の1本でもあり、久々に見直しましたが面白かった!

 戦国時代末期。妻子のいる陶工(森雅之)は金儲けを企んだ結果、美しい<死霊(京マチ子)>に魅入られる。一方、侍を志す男(小沢栄太郎)は望みかなって立身出世を果たすが、その間に彼の妻には不幸が訪れていた・・・。

 江戸時代に書かれた上田秋成怪奇小説集「雨月物語」からチョイスした2編に(溝口の選択)、モーパッサンの「勲章」を加え、溝口が日本的情緒溢れる<幽玄の世界>を構築した。

 <あらすじ>だけ書くと小泉八雲の「怪談(特に「耳なし○○」)」に似てなくもないが(笑)、そこは巨匠・溝口!徹底した時代考証による「美術(死霊の住む武家屋敷の見事なこと!もう、いまの邦画の予算じゃ実写では出来ぬ)」と得意の「1シーン1カット(長回し)」で見せる見せる。故・相米慎二監督も「1シーン1カットの長回し」で知られるが、時折「ここはカット、割った方がええんちゃう?」と思うところも時折見られたが(笑)、この作品ではその点もうまく処理!かのゴダールトリュフォーも絶賛したのが頷ける。
 また巨匠・溝口はめっちゃ我儘だったそうでー京マチ子の<衣装>や<小道具>は、モノクロでもかなり高価なものである事は一目瞭然(スタッフの苦労が偲ばれる・苦笑)。

 撮影を担当した天才カメラマン、故・宮川一夫によれば「不安定感を出すため、7割はクレーンで撮影。色彩はあえてコントラストをつけず、中間のグレーとした」との事だが、そのカメラワークの見事なこと!昭和28年当時の機材で、よくあれだけスムーズに移動撮影が出来たものだと感心させられた。
 グレーのソフトフォーカスによる<映像>はースモーク(煙)の使い方のうまさも手伝って、妖美さを強調!俳優陣の巧演もあり(溝口映画には欠かせない田中絹代も出演)、テーマである<人間の欲>や<愚かさ>がよく出ていた。コケおどしの「怪談映画」とは違うのだ!

 黒澤明同様、溝口自身も数々の<伝説>に彩られた人物であるが、そんな逸話を含めて再評価すべき監督のひとりだと思う。日本映画黄金期にはこんな凄いひとがいたのだ!!
ちなみに・・・溝口作品に貢献した脚本家・依田義賢が「スター・ウォーズ」の「ヨーダ」のモデルという説があるのだが(名前からだとまんまやんけ)、ある時それを尋ねられたジョージ・ルーカスははっきり否定したそうだ(笑)。「ジェダイ」の語源が「時代劇」説同様、誰か聞いてくれ!