其の92:何故か「テオレマ」が好き・・・

 最近、パゾリーニの名もあまり聞かなくなった。イタリアの詩人、小説家、そして映画監督(&生粋のゲイ)でもあったピエル・パオロ・パゾリーニ。エログロ大変態映画「ソドムの市」完成後、同じ趣味の若人に撲殺されたスキャンダルは余りにも有名である。代表作といえば「アポロンの地獄」、「王女メディア」辺りが一般的だろう。「デカメロン」じゃないな(笑)。
 でも、筆者は・・・何故か「テオレマ」が好きだ。このブログ・タイトルを少々裏切るかもしれないが・・・奇妙な味わいの1作である。

 
 イタリアのミラノ。とあるブルジョワ(死語)一家の邸宅。そこで行われたパーティーに呼ばれもしないのに佇む不思議な青年(テレンス・スタンプ好演!)。パーティー終了の後も、彼はそこに留まり(=何故か誰も突っ込まない)、メイドも含めた家族全員と次々<肉体関係>を結ぶ。ところが、突然彼は家を去る。そこから一家の苦悩、錯乱、奇行が始まる・・・。

 
 まず若き日のテレンス・スタンプが、バイセクシャル(両刀)の魅力をプンプンと放ち妖しさ120%!何故か、彼と目が合うと男女が揃いも揃って不思議に欲情して関係を持つ。永井豪の「花っぺバズーカ」のチ○コ指も真っ青の効力(笑)。この青年は<神の化身>ではないか、という評論家もいるが、パゾリーニの趣味を考えると、彼のある種の<理想像>のような気もしなくはない(女性には興味はなかっただろうが)。

 
 彼が去ったあと、崩壊してゆく家族。パゾリーニはその心象風景として<第三世界>の荒野の風景を所々に挿入。肝心の青年の正体も一切説明されない。あえて言語による説明を避け「現代の寓話」と思しき構成を取っている。淡々としたテンポとそれに同調した音楽。ハリウッド作品とは全く異なる難解なテイストだ。これが観ているうちに次第に身体が慣れ、この不可思議な作品の魅力に取り付かれてしまう。まるでー観客も青年に取り込まれたかのように!!

 
 文字だけでも、音楽だけでも表現出来ない<事象>・・・。パゾリーニは<映画>にしか表現しえない物語と設定を確信犯的に行った。青年についてや作品の解釈はー人それぞれ意見があっていいと思う。素直に心と身体を委ねて、ゆっくり「テオレマ(=「定理」の意)」に向き合う・・・。これが、この作品との唯一正しい接し方ではないだろうか。