其の91:鬼の今平、渾身の大作「神々の深き欲望」

 先日、惜しまれつつ、その生涯を閉じた巨匠・今村昌平。一般的に彼の代表作といえば「復讐するは我にあり」、「楢山節考」、「赤い殺意」、「にっぽん昆虫記」辺りになるのだろうが、筆者のイチオシは何といってもー「神々の深き欲望」だ。
 今平監督の持つ土着性や民族的なもの、あとスケベさ(笑)が存分に発揮され、日本と日本人の根源に迫った結果、<神話の世界>にまで到達してしまった!日本映画史的にも外せない記念すべき1作だと思う。

 文明から隔絶された南海の孤島クラゲ島。そこへ本土から製糖工場建設を進めるため技師(北村和夫)がやってくる。島には巨岩を始末するため延々と穴を掘り続ける男(三國連太郎)とその家族(嵐寛寿郎河原崎長一郎、沖山秀子ほか)たちがいたー。否応なく島にも近代化の波が押し寄せてくる・・・。ストーリーからも、神話的な設定がうかがえるでしょ?

 今平監督初の<カラー作品>である今作は、それまで東北を舞台にした諸作から一転、南国へ目が向けられた。その大半が石垣島とその近郊で長期間に渡って撮影されている。
照りつける太陽、どこまでも青い海、手付かずの大自然・・・それらがギラギラと毒々しい色彩で迫ってくる。そして黛敏郎の土俗的な音楽ー。そんな小島の「村社会」を舞台に繰り広げられる近親相姦、愛憎、リンチ・・・。全てが<強烈>の一言!

 この作品のロケはーいまや<伝説的>!その余りの過酷さ(暑い南国の小島で、粘りに粘る今平演出!ちなみに監督のタフネスぶりは有名)に、かのアラカンでさえ再三脱走を試みたという(笑)。
上映時間3時間弱ーその世界観、予算規模を考慮しても今平最大にして最高傑作だと言えよう。

 生涯、「人間」の業と性を見つめ続けた今村昌平。軟弱な作品ばかりが目立つ近年の邦画にあって、本当に貴重な方を失ったと思う。彼に続く才能が出てくる事を祈りつつー合掌。