其の84:天才森田芳光の傑作2本!

 筆者は学生時代、ある映画監督にハマっていた。森田芳光監督である。彼の初期の数本は皆、傑作だと思う。デビュー作の「の・ようなもの」、沢田研二主演「ときめきに死す」、薬師丸ひろ子の「メイン・テーマ」・・・。中でも「家族ゲーム」は彼の名を一躍世に轟かせた<傑作中の傑作>だと思う。

 「テーブルに横一列に並んで食事を取る家族」、「船で教え子の下に通う家庭教師」、「家の中のエレベーター」といった秀逸なアイデアや画作り。「目玉焼きから黄身だけ吸う父親」、「ささやくように話す家庭教師」といった妙な人物設定に、音楽を一切使用せず現実音のみで処理した音響・・・。全てにおいて森田の才能を感じずにはいられない。天才モリタの伝説の始まりである。それは全く新しい日本映画が誕生した瞬間でもあったのだ。
 また、それまで「アクションスター」だったカリスマ俳優・松田優作が怪しい家庭教師を演じた事で、彼の役の幅も広がったと思う。かつて、この作品でデビューした宮川一朗太さんに当時の話をうかがったところ「(緊張して)優作さんの前では直立不動でした。」「僕の最高傑作はデビュー作(=「家族ゲーム」)なので、これを越えるまで頑張ります。」と話されていた事を思い出す。

 モリタのもう1本の傑作が「それから」。夏目漱石原作の文芸物。ここでも松田優作を主人公の明治時代の高等遊民(=インテリだけど仕事せずにブラブラしている)として起用している。原作を忠実になぞりながらも完全にモリタ・ワールドになっているのが凄い!優作の親友でもあり、恋敵に扮した小林薫もいい味出している(以降、森田作品の常連。筆者的にはTVドラマ「ふぞろいの林檎たち」の好演も忘れられない)。モリタ絶頂期の1作と呼んでも過言ではないだろう。

 だがー「それから」以降、森田は長い低迷期に入ってしまう。とんねるず主演の「そろばんずく」はギャグが滑りまくり(この共演がきっかけで木梨憲武と安田成美が結婚)。「悲しい色やねん」は意匠だけ、「キッチン」、「おいしい結婚」は大味な物語があるのみ。原作者・宮部みゆきから指名された「模倣犯」は期待を裏切る<底抜け超大作>(苦笑)!
 かの「失楽園」や「阿修羅のごとく」もイマイチ森田がやらなくてもよい作品で・・・じょじょに筆者は彼の映画から足が遠のいてしまった(「黒い家」等のサスペンスはそこそこ面白くはあったが)。彼の全盛期をリアルタイムで知っているだけに批評する目が厳しいのかもしれないが。

 また、いつか来るであろう<第2次モリタ絶頂期>をー首を長くして待つ!