其の439:森田芳光監督を偲ぶ。

 日本国としても日本人としても生涯忘れえぬ2011年となったが・・・今年は本当に数多くの著名人が亡くなったのだが・・・この暮れの師走に、それこそ何の前触れもなく森田芳光監督が、わずか61歳で生涯を終えるとはー全く予想していなかった。幼少時より映画を観始めて以来、スピルバーグやルーカス、キューブリックリドリー・スコット市川崑ほか多くの監督・俳優から影響を受けた筆者だが・・・森田芳光も確実にその1人だった。そこで本来のアイデアを止めて、今回は筆者なりに森田監督を偲びたいと思う。

 彼ー森田芳光は自身の監督以外に、他者への脚本提供やオムニバス映画「バカヤロー!」シリーズのプロデュース業、あるいは役者として出演もしているのだが、ここでは監督作に絞って短文ではあるが・・・書いてみたいと思う(・・・俳優や撮影、美術他にまで言及していったら、ここの項目終わらなくなる)。まず森田の監督作は以下の通り(8ミリで自主制作した「ライブイン・茅ヶ崎」(’78)は“商業映画”ではないので、ここでは割愛)。


 1:「の・ようなもの」(’81)企画・監督・脚本
 2:「シブがき隊 ボーイズ&ガールズ」(’82) 監督・脚本
 3:「本(マルホン)噂のストリッパー」(’82) 監督・脚本
 4:「ピンクカット 太く愛して深く愛して」(’83)監督・共同脚本
 5:「家族ゲーム」(’83)監督・脚本
 6:「ときめきに死す」(’84)監督・脚本
 7:「メイン・テーマ」(’84)監督・脚本
 8:「それから」(’85)
 9:「そろばんずく」(’86)監督・脚本
10:「悲しい色やねん」(’88)監督・脚本
11:「キッチン」(’89)監督・脚本
12:「愛と平成の色男」(’89) 監督・脚本
13:「おいしい結婚」(’91)監督・脚本
14:「未来の想い出−Last Christmas」(’92) 監督・脚本
15:「(ハル)」(’96)監督・脚本
16:「失楽園」(’97)
17:「39 刑法第三十九条」(’99)
18:「黒い家」(’99)
19:「模倣犯」(’02)監督・脚本
20:「阿修羅のごとく」(’03)
21:「海猫」(’04)
22:「間宮兄弟」(’06)監督・脚本
23:「サウスバウンド」(’07)監督・脚本
24:「椿三十郎」(’07)
25:「わたし出すわ」(’09)監督・脚本
26:「武士の家計簿」(’10)
27:「僕達急行 A列車で行こう」(’12年公開予定)


 上記で分かるように彼の特徴のひとつに挙げられるのはコメディからロマンポルノ、アイドル映画に文芸もの、サスペンスから時代劇に至るまで・・・幅広いジャンルを扱っている点。世間一般では、彼の代表作といえば各賞に輝いた「家族ゲーム」(注:長渕剛のテレビドラマの方じゃないよ)と大ヒット作「失楽園」(これも川島なお美の方じゃありません)、向田邦子の有名作「阿修羅のごとく」辺りになるんでしょうが、正直、モリタ大林宣彦同様、当たり外れの大きい監督で筆者もロマンポルノ2本(年齢的に観られなかったのよ)とシブがき隊主演作(笑)を除いて、「の・ようなもの」から、ほぼ公開順に観ていたが・・・やはり初期作がモリタの“全盛期”だったと思う。「家族ゲーム」と「それから」が彼の最高傑作!「の・ようなもの」、「ときめきに死す」、「メイン・テーマ」、「39」、「黒い家」がそれに続く快作だ。傑作2本が・・・どちらも若くして亡くなった盟友・松田優作主演というのは・・・いま考えると意味深い。ちなみに出演者を主演のみに絞って書くと以下のようになる。


 ●「の・ようなもの」(’81)・・・秋吉久美子
 ●「シブがき隊 ボーイズ&ガールズ」(’82)・・・シブがき隊
 ●「本(マルホン)噂のストリッパー」(’82)・・・岡本かおり(懐)
 ●「ピンクカット 太く愛して深く愛して」(’83)・・・寺島まゆみ(懐!)
 ●「家族ゲーム」(’83)・・・松田優作
 ●「ときめきに死す」(’84)・・・沢田研二
 ●「メイン・テーマ」(’84)・・・薬師丸ひろ子
 ●「それから」(’85)・・・松田優作
 ●「そろばんずく」(’86)・・・とんねるず
 ●「悲しい色やねん」(’88)・・・仲村トオル
 ●「キッチン」(’89)・・・川原亜矢子
 ●「愛と平成の色男」(’89)・・・石田純一
 ●「おいしい結婚」(’91)・・・斉藤由貴
 ●「未来の想い出−Last Christmas」(’92)・・・清水美砂
 ●「(ハル)」(’96)・・・深津絵里
 ●「失楽園」(’97)・・・役所広司黒木瞳
 ●「39 刑法第三十九条」(’99)・・・鈴木京香
 ●「黒い家」(’99)・・・大竹しのぶ
 ●「模倣犯」(’02)・・・中居正広SMAP
 ●「阿修羅のごとく」(’03)・・・黒木瞳
 ●「海猫」(’04)・・・伊藤美咲
 ●「間宮兄弟」(’06)・・・佐々木蔵之介塚地武雅ドランクドラゴン
 ●「サウスバウンド」(’07)・・・豊川悦司
 ●「椿三十郎」(’07)・・・織田裕二
 ●「わたし出すわ」(’09)・・・小雪
 ●「武士の家計簿」(’10)・・・堺雅人
 ●「僕達急行 A列車で行こう」・・・松山ケンイチ瑛太


 2つ目の特徴は圧倒的に“原作もの”が多く、自ら“脚色”していること(小説はもとより「未来の想い出」なぞ、藤子・F・不二雄先生の漫画が原作)初期作の脚色は素晴らしいものがあったが、宮部みゆきに指名されて作った「模倣犯」は・・・下手にイジりすぎて「底ぬけ超大作」と化し、宮部本人も怒ってしまったほど(苦笑)。逆に他人に書かせた「それから」は脚本が夏目漱石の原作まんまなんだけど、非常に丁寧に“明治時代”を表現していた。「失楽園」はナベジュン(渡辺淳一)大先生の大ベストセラーを美しく映像化してるとは思うが・・・映画の中身事態は・・・ねぇ(苦笑:告別式で弔辞を読んだ黒木瞳に怒られるかしら)。

 3つ目の特徴にして、モリタ最大の“売り”は、やはり彼独自の凝った意匠でしょう!「の・ようなもの」にある、いきなりプールから出てきてリンゴをかじる男や有名な「家族ゲーム」の横一列に座った食事風景(あと家の中でエレベーター乗るところ)、「それから」の路面電車の中で順に花火をする乗客・・・こんなこと、並の監督や脚本家では絶対に思いつかない(さすが天才モリタ)!!筆者などは、そんなモリタの意匠が楽しみで映画館に通っていたクチだ。出来は並だけど「悲しい色やねん」のガンアクションで流れる“黒い”血や、先の「失楽園」中、フ●ラシーンを音のみで処理する等、外した映画でも“必ずなにか”はやってくれていたもの。「椿三十郎」なぞ黒澤らのオリジナル脚本まんまでリメイクするという手法も・・・彼らしいアイデアだとは思った。ただ、有名なラストの<血ブシュー>を、あのように改変したのは如何なものかとは思うが(苦笑:未見の人は是非)。

 正直、ファンだった筆者も映画館に通ってまで観たのは「模倣犯」ぐらいまでで、以降はリアルタイムではほとんど観なくなってしまった(→「模倣犯」のラストの大仰天とんでもシーン観りゃ、そうも思うよな。筆者なぞ、「俺はいま寝ていて、夢を見ているに違いない」とまで思った程)。またハズすのが怖かったからだ(「海猫」なぞ「失楽園」路線だと思ったんで未だに観ていない)。でもね・・・モリタは初期作から人間を観る視点が面白かったから、将来「家族ゲーム」を越える作品・・・たとえば意匠を散りばめた小津作品みたいなものをいつか作ってくれるのでは、と期待していたのよ(例えば「おいしい結婚」では、斉藤由貴唐沢寿明のデートシーンは絶対に車に乗らないデート、を意識していたそうだ)!それもいまではかなわぬ夢となってしまった・・・。すでに新作の企画に着手していたご本人も無念だとは思うが、筆者も本当に残念でならない。

 
 そんな想いを胸に来春、最後の監督・脚本作「僕達急行 A列車で行こう」を観に劇場へ足を運ぼうと思う。モリタ監督、これまで本当に有難うございました!貴方は確実に私に映画の面白さを教えて下さいました。心よりご冥福をお祈り致します。



 <どうでもいい追記>年内はあと1回更新して・・・終わりにしますかね。