其の81:「鬼畜」を観て、この国を憂う・・・

 我が国を代表する社会派推理作家・松本清張の同名小説の映画化。いま、秋田で起こった子供の殺害事件をワイドショーは大々的に取りあげているがーこの「鬼畜」にこそ、秋田の事件同様、大人の身勝手さ・幼稚さがストレートに描かれている。いま、この国の全ての大人がこの作品を「観て」、「考える」べきだと思う。

 小さな印刷所を経営する気弱な男(緒形拳)。ある日、彼のもとに愛人(小川真由美)が彼の3人の私生児を連れてやってくる。彼女は彼からの「手当て」が貰えなくなった事(=彼の会社の経営が苦しい為)を理由に子供を押し付けて帰ってしまう。
 事実を知った妻(岩下志麻)は男に子供を<処理>するよう言い渡す。こうして、男の「子捨て」、「子殺し」が始まった・・・。

 監督は野村芳太郎。同じ清張物を演出した「砂の器」の方が評価は高いしメジャーだが、筆者はそうは思わない。全面的に<子供>が出てくるせいもあるかもしれないが(役者曰く「子供と動物にはかなわない」)、それを差し引いても<親と子>、<人間の在り方>を問う感涙必至の大傑作。「砂の器」に劣るとは思えないのだ。

 俳優陣も充実!緒形拳岩下志麻ー両名優の<なりきりぶり>はいつもの如く。特に岩下は「極道の妻たち」シリーズ同様、身の毛もよだつほどリアル過ぎて怖い(笑)。
ラストに登場する大竹しのぶ(超可愛い!)の存在と台詞がー作品に僅かながら<希望>を残してくれるのが、せめてもの救いだ(ご自身の目で確認して下さい)。

 いまの日本では子供が殺されたり、誘拐されたりする「事件」が続発する一方、「少子化」が大きな「問題」となっている。この相矛盾する2つの<要素>・・・。
 私見ながら(「全て」とは言いません)ー若者は将来に希望が持てず、刹那的な快楽のみに耽る。大人は自信を喪失し、どう行動していいのか分からないー国民の幼稚化・白痴化・無気力化ーと捉える事も出来るだろう。
その<混迷ぶり>をも、この作品が既に<予見>していたーとは果たして言い過ぎか?