其の80:鬼才・川島雄三の代表作「幕末太陽傳」

 「幕末太陽傳」は先日、亡くなられた今村昌平監督に多大な影響を与えた人物(=師匠)が川島雄三監督である。その川島の代表作にして、45歳で夭折した彼の最高傑作でもある。川島は以前から、男同士がいきなりフェンシングで戦う(!)等の<とんでも演出>で観客を唖然とさせてきたが(笑)、そんな彼が高い評価を受け、現在の<カルト監督>の地位を得るきっかけとなった昭和32年・日活作品(勿論、ポルノやる前)。

 時は幕末・品川宿。お調子者の町人・佐平次(フランキー堺)は宿でさんざ飲み食いした代金を払えず店の人間として働きはじめ、その才覚を発揮する。その頃、同じ宿に出入りしていた高杉晋作石原裕次郎!)らは暇つぶしに異人館の焼き討ちを画策していた・・・。

 古典落語居残り佐平次」に「品川心中」、「芝浜」を加え、更に高杉ら幕末の志士をタイトル通り「太陽族」に見立てて(=この当時、「太陽族」映画は若者に悪い影響を与えるとの批判から、製作が禁止されていた)脚色した<爆笑コメディ大作>である。この物語を川島や助監督時代の今村らが共同で執筆した。裕次郎初の時代劇(&コメディ)としても知られている。ちなみに時代劇だからといってチャンバラは期待しないように(笑)。

 なによりも素晴らしいのが主人公を演じたフランキー堺の演技!植木等を軽く越えるC調ぶりでなんなく用事をこなしたかと思えば、ひとりになると労咳の薬を飲んでいるーといった按配。生まれつき身体が弱かった川島の<憧れ>を具現化した人物といえそうだ。

 当初、川島は<ラスト>になんと主人公がいきなりセットのある「撮影スタジオ」の外へ出て、現代(=撮影当時)の街の中へ逃げていくーという大胆な構想を持っていたという。勿論、そんな映画(=虚構)をブチ壊す事が許されるわけもなく、<いま観られるラストシーン(皆さん、ご自分の目でお確かめ下さい)>に落ち着いたという。川島の諸作品が「現代なら通用する」と言われる所以だ。早すぎた天才だといえよう。

 フランキーを中心に裕次郎のほか小林旭、先日亡くなった岡田真澄南田洋子左幸子山岡久乃小沢昭一ら芸達者が勢ぞろいする。出演者をチェックするのも楽しい1本。必見!