其の68:三十路以上は観ろ!「パリ、テキサス」

 そろそろ「エル・トポ」とかタイ映画「マッハ!」あたりがこのブログらしいのだが、たまにはマジなやつを(笑)。今回取り上げる「パリ、テキサス」はドイツ人監督ヴィム・ヴェンダース(このへんから「ベルリン・天使の詩」までが彼の全盛期だったように思える)による味わい深い一編。カンヌで作品賞など3部門を受賞。

 
 アメリカ・テキサス州にある街「パリ」(事実かどうかは不明)を探しに、放浪の旅を続けていた男(「エイリアン」のハリー・ディーン・スタントン)が力尽きて倒れる。これをきっかけに彼の消息を知った弟に助けられ、4年ぶりに息子と再会を果たす。打ち解けたふたりは、同じく行方不明の妻(ナスターシャ・キンスキー)を探しに旅立つのだがー。

 
 フランシス・フォード・コッポラに映画「ハメット」の監督依頼を受けてアメリカに来たヴェンダース(彼はアメリカと小津安二郎が大好き)が、その製作スタンスの違いから酷い目にあった後、オール・アメリカロケで撮り上げた。ストーリーからも分かるように彼お得意の<ロード・ムービー>スタイルの中に「家族の絆」、「精神の不毛」、「コミュニケーションの喪失」等、現代人が抱える諸問題を浮き彫りにしている。
 撮影中、ドルの高騰による予算不足の為の「撮影中断」やそれに伴う「脚本の変更」、(当時)売れっ子ナタ・キンの「スケジュール問題」ほか数々の苦難に見舞われた(お陰で撮影監督や助監督たちは無報酬で働く破目に)。そんな状況下にあってもヴェンダースは、結婚し子供が出来ても大人になりきれない愚かな男と女を主軸に<家族の崩壊と再生>をブレる事なく叙情的に描き上げた(ちなみに、単純なハッピー・エンドではないよ!)。
 物語の前半幾度も登場する<荒野>、そしてライ・クーダーの奏でる切ないギターの音色が主人公たちの<精神の荒廃ぶり>を見事に象徴している。
 
 10代後半で最初にこの映画を観た時も感銘を受けたが、30代後半となり妻を娶ったいま、より感心させられた。<普遍的な内容>を備えた秀作である。